今年度はまず、共役置換部位と光分解性部位を両方有する化合物を合成した。目的物は得られたが、合成スキームの最後の反応である(クロロメチル)アクリル酸クロリド(CMAC)との反応の収率が著しく低くなった。この低収率は、目的とするアルコールと酸クロリドの縮合反応の他に、アルコールと共役置換部位が起こす副反応に起因すると考えられる。 上記の副反応を防ぐため、目的物と同等の機能を有する化合物をデザインし、その合成を検討した。この新たな合成ルートでは、問題の副反応を引き起こすCMACとアルコールの縮合反応を含まないため、初めに検討した合成ルートよりも高い収率での目的物合成が期待される。しかしながら、中間体の合成は高効率で進行したものの、続く森田-Baylis-Hillmann反応が容易には進行せず、目的物は得られなかった。そこで、触媒や反応剤であるアルデヒド化合物の構造を含めて数多くの反応条件を検討し、この森田-Baylis-Hillmann反応について詳しく調べた。その結果、本合成ルートにおける中間体のエステル結合部位が、当該反応条件では切断されてしまうことが避けがたい根本的な問題であると示唆されたため、この合成ルートは断念した。 低分子反応剤の合成と並行し、初めに検討した合成ルートによって低収率ながら得られた目的物を用いて、高分子との反応性を検討中である。一方で、問題となった低収率を解決するため、新たな分子設計、合成ルートも検討中である。
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