浅い湖では、貧酸素化などによって促進される底質から湖水へのリン内部負荷のため、リンの外部負荷を削減しても水質改善が進みにくい時がある。諏訪湖は最大水深が6m程の浅い湖であるが、リン外部負荷の削減に伴い水中リン濃度が大きく低下し、植物プランクトン量も減少した。さらに、植物プランクトンの優占種も藍藻類から緑藻類・珪藻類へ変化している。諏訪湖におけるリン動態の解明は浅い湖の水質管理に有用な知見になると考え、水・底質中のリン・鉄濃度などを測定し、諏訪湖が過栄養状態であった1970年代と比較した。 1970年代の諏訪湖では貧酸素期に底質から放出されたリンが湖表層まで届いていたが、2020年前後の諏訪湖の貧酸素期ではリンが湖底層に留められていた。原因として、底質中リン濃度が減少したことに伴う底質からのリン放出速度の低下、温暖化による水温成層の強化に伴う湖水混合の抑制、湖水中の鉄が底質からのリン内部供給を妨害する「Fe-Pサイクル」の形成が考えられた。 また、近年の諏訪湖における植物プランクトンのリン獲得様式を解明するために、有機リンの分解酵素であるアルカリホスファターゼ(AP)の湖水中での活性を測定した。湖水を分画しAPの活性を測定した結果、諏訪湖では、リンがより豊富な他の水域と比べて、植物プランクトンのAP生産が高まっていることが判明した。これは上記の、底質から湖表層へのリン供給の低減によって、植物プランクトンが直接利用できる無機リンが減少し、有機リンもリン資源として利用していることが原因と考えられた。さらに、近年の諏訪湖における優占種である珪藻類や緑藻類はリン濃度に応じてAPを生産することが示された。かつての優占種であった藍藻類はAPをあまり生産しないと言われており、諏訪湖における植物プランクトン種の変化にリン濃度や組成が大きく関わっていることが示唆された。
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