アドレノメデュリン(AM)は多彩な作用を有するペプチド因子である。 我々は、AMの機能が主として、AM受容体に結合する受容体活性調節タンパク、RAMP2あるいはRAMP3によって制御されていることを報告してきた。昨年度までの検討から、誘導型血管内皮細胞特異的 RAMP2 ノックアウトマウス(DI-E-RAMP2-/-)では、血行性転移のみならず、リンパ節転移も亢進することを見出した。リンパ節内には、通常の血管内皮細胞とは異なる高内皮細静脈(HEV)が存在する。HEVは、リンパ球を免疫応答の場であるリンパ節内にリクルートする働きを持つ。DI-E-RAMP2-/-では、リンパ節内のHEV数の減少と内皮細胞の形態異常、T細胞の減少、樹状細胞の分布異常が認められた。さらにDI-E-RAMP2-/-では、HEVに特異的に発現し、リンパ球誘引に必要なCCL21/CCL19などのケモカインや、ICAM-1/Glycam-1などの接着因子の発現が低下していた。 次に、もう一方の受容体活性調節タンパクである、RAMP3に着目した研究を進めた。RAMP3遺伝子を欠損した乳癌細胞 (RAMP3-/-細胞)を樹立した。C57BL/6Jマウスに癌細胞の皮下移植実験を行うと、RAMP3-/-細胞移植群では、コントロール細胞移植群と比較して、腫瘍重量が有意に抑制された。RAMP3-/-細胞移植群では、癌関連線維芽細胞(CAF)の活性化マーカーであるSM22αや、上皮間葉転換(EMT)誘導因子であるTGF-β1およびSnailの発現低下が認められた。 以上から、AM-RAMP2系は血管恒常性を維持することで、転移を抑制すること、AM-RAMP3系はCAFの悪性度を増悪させ、転移を促進することが明らかとなった。選択的なRAMP2の活性化とRAMP3の抑制が、癌転移抑制の新たな治療法になることが期待される。
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