近年著しく進歩しているLC-MS/MSを基盤としたメタボローム解析インフォマティクスを活用する迅速かつ効率的な有用天然物探索手法の構築と,それを利用したベトナム産薬用植物からの新規生物活性物質の発見を目的とした。本手法の確立によって、複雑多様な二次代謝産物を含む天然資源抽出エキスから有用分子をピンポイントで見出すことを可能にする。まず、多変量解析PLS-DAから得られるVIPスコアが生物活性とイオンピークに良好な相関を与えることが報告されていることから、これを分子ネットワーク解析と組み合わせるバイオケモメトリックスとして導入することを検討した。次いで、強力な細胞増殖抑制活性を示したトウダイグサ科植物エキスを対象に、LC-MS/MSデータを用いた分子ネットワーク解析とPLS-DA解析を統合したネットワークを構築、可視化した結果、テルペノイド類に相当するネットワークを構成する複数のクラスターの中でも、1つの未知化合物クラスターと1つの既知化合物クラスターが生物活性に大きく寄与することを見出した。そのうち、未知化合物クラスターを標的として分画を進め、これまでにない6/6/6/5/6/5/7/6/5縮環構造を有する一連の新規ジテルペノイド二量体を効率的に単離、構造決定することに成功した。いずれのジテルペン二量体においても、ヒト急性骨髄性白血病細胞株に対して顕著な細胞増殖抑制作用を示すことを確認し、確立した化合物探索手法の有用性を実証した。また、これら化合物が細胞周期に与える影響も明らかにした。
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