これまでに確立した「糖脂質受容体へのシアル酸導入(シアリル化)」を応用し、ネオラクト系列シアル酸含有スフィンゴ糖脂質(ガングリオシド)プローブの開発に取り組み、以下の項目を実施した。 【①糖脂質受容体の合成法の改良とシアリル化】従来の糖脂質受容体の合成では、四糖構造を構築するグリコシド化が低収率であった。その原因は、グリコシド化の酸性条件下で保護基が除去される副反応にあった。そこで、酸性条件に耐える保護基へと変更したところ、副反応が抑制され収率が大幅に向上した。 従来の糖脂質受容体のシアリル化は、過剰量のシアル酸供与体を要した。原因である受容体水酸基の低反応性は、反応点周辺の保護基に起因すると考えられた。そこで、この保護基を除去した糖脂質受容体を合成し、供与体の当量を削減した条件でのシアリル化を達成した。さらに従来の保護様式の受容体との比較を行い、予想通り反応点周辺の保護様式が受容体の反応性に影響を与えることを実証した。 【②各種ガングリオシドプローブの合成】脂肪酸構造が多様なガングリオシドを合成するため、合成終盤に脂肪酸を導入する経路を立案した。昨年度のモデル実験の結果に倣い、①で得られた化合物に対して脂肪酸を導入し、脂肪酸鎖長が異なるガングリオシド骨格を効率よく合成した。さらに、シアル酸5位アミノ基を選択的に遊離にし、これを起点としてN-Ac型及びN-Gc型ガングリオシドプローブの合成を達成した。以上より、本合成法がシアル酸及び脂肪酸の部分構造を変えた誘導体の合成に有用であることを確認した。 【③生細胞膜上での1分子観察】合成したラクト系列・ネオラクト系列ガングリオシドプローブの細胞膜上での1分子観察を行い、定常状態にて糖脂質がホモ二量化する様子を捉えた。先行研究において他の系列の糖脂質も同様の挙動を示していることから、ホモ二量化が糖脂質に共通した膜挙動であることを見出した。
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