研究課題/領域番号 |
21J00994
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
井上 漱太 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | ウマ / ドローン |
研究実績の概要 |
本プロジェクトでは当初タンザニアにおけるヌーを対象にして、季節間における大移動を観察し、個体の進行方向の決定メカニズムに迫ることを計画していた。しかし、コロナウィルスの蔓延により、予定していた野外調査を行うことをできず、2020年度までに取得していた野生ウマの空撮映像の解析に注力した。加えて、競争馬の長期的な競争記録を利用して、母馬の高齢化と産仔パフォーマンスの影響についても解析を行なった。これらは、当初の研究計画とは異なるものの、使用している手法が類似しており、新規手法開発という点で、ある程度当初の研究計画に沿ったものである。 ポルトガルに生息する野生ウマの群れを対象に、個体間相互作用、特に、群れ内の個体間作用と群れ間の個体間作用の違いについて注目し、データ解析を行なった。一般的に動物の群れでは個体間に引力と斥力が作用し、個体間距離が保たれ、群れを維持していると考えられている。しかしながら大型哺乳類を対象として、実証的に引力と斥力の存在を解き明かした研究は限られていた。本研究ではドローンを用いた空撮データと地上からの個体識別を通して、各個体の位置と動きを記録した。時系列的に変化する個体の位置を解析した。また、群れ同士が混ざり合わないウマのユニークな性質を通して、群れ内で働く引力ー斥力と群れ間に作用する引力ー斥力のダイナミクスを推定した。 また代替研究プロジェクトの一環として、競争馬における長期データを利用して、母馬の高齢化と産仔パフォーマンスの関係についても統計的解析を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ポルトガルに生息する野生ウマの群れを対象に、個体間相互作用、特に、群れ内の個体間作用と群れ間の個体間作用の違いについて注目し、データ解析を行なった。その結果、群れ内と群れ間においては異なる引力ー斥力のダイナミクスが存在することを明らかにした。また、空撮動画内の個体のトラッキングも進め、その手法を確立した。現在、トラッキングデータを利用し、通常採食時におけるリーダーーフォロワーシップについて解析を行なっている。 競争馬における統計的解析研究では、一般的に母馬の高齢化は産仔パフォーマンスの低下を引き起こすと考えられていた。しかし、既存研究では種牡馬の品質を含めた研究は行われていなかった。本研究では、母馬の年齢、種牡馬の品質、産仔パフォーマンスを含めた統計モデルを構築し、解析を行なった。その結果、母馬の高齢化と産仔の競争パフォーマンスの間には直接的因果関係は支持されず、むしろ母馬の高齢化と種牡馬の品質の間に負の相関が認めれた。したがって、母馬の高齢化が種牡馬の品質低下と相関し、種牡馬の品質低下が産仔パフォーマンスを低下させるというモデルが支持された。 本プロジェクトでは当初タンザニアにおけるヌーを対象にした研究を予定していたが、コロナウィルスの世界的蔓延により計画を変更せざるを得なくなった。2021年当初から研究計画を大きく変更したことを考慮すると、本研究は概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度はアフリカのフィールドにおける野外調査を計画している。南アフリカ、クルーガー国立公園にて、野生のライオンやイヌを対象に、共同狩猟を対象に観察研究を行う。さらに、他の国におけるハンティングパークでの調査も計画している。ドローンを用いた空撮動画とトラッキングにより、野外で初めて共同狩猟の様子を正確に記録・解析を行う。共同狩猟では群れで対象となる他の種を追い、個体間で行動を時系列に同調させながら、狩猟を行う。これまでの既存研究では、理論研究が多く、実際に野外での共同狩猟を対象にした研究は存在しなかった。さこれは、当初の研究計画とは多少異なるものの、群れにおける個体の行動メカニズムを探るという点で、当初の計画に沿ったものである。
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