研究課題/領域番号 |
21J01235
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
飯島 直樹 名古屋大学, 人文学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 天皇制 / 軍事輔弼体制 / 元帥府 / 陸海軍 / 大正天皇 / 昭和天皇 / 象徴天皇制 |
研究実績の概要 |
本年度は、交付申請書に記入した計画に基づき、①戦後の象徴天皇制と軍事の関係性、②明治期から昭和戦前期にかけての軍事輔弼構造の解明という2つの論点を軸に研究を進めた。検討に際しては、国立国会図書館憲政資料室、国立公文書館、防衛省防衛研究所戦史史料研究センター、宮内庁宮内公文書館、靖国偕行文庫などの各機関所蔵の公文書や個人文書を悉皆的に調査した。 ①については、受入研究者の河西秀哉・名古屋大学准教授の紹介により、田島道治『昭和天皇拝謁記―初代宮内庁長官田島道治の記録―』(全七巻、岩波書店より順次刊行中)の編集刊行作業に携わっている。本年度は主に翻刻校正・脚注作成などを担当した。『昭和天皇拝謁記』は、田島道治による昭和天皇との拝謁時の詳細なやり取りを精緻に記録したものであり、象徴天皇制研究はもちろん、戦前の天皇制研究や戦後史研究全般にも大きなインパクトを与える第一級の重要史料である。史料中には、昭和天皇の再軍備に関する考え方や、旧軍・警察予備隊関係者との接触などの記述が豊富に見られ、本研究課題を進めるうえでも基礎史料なると考える。翻刻編集作業に携わるとともに、記述内容の検討などの基礎的作業も進めている。 ②について、史料収集の結果を踏まえて、主に大正天皇から昭和天皇への代替わりの時期における軍事輔弼体制の変容について重点的に検討した。その結果、(a)従来軍事との関連性が薄いとイメージされていた大正天皇は、元帥府を中心とする軍事輔弼体制に支えられて、軍事指導を安定的に行っていたこと、(b)大正天皇の死後、陸軍当局は元帥府を軍事輔弼体制から排除し、当局の権限を強めることに成功した一方、天皇を支える軍事的助言者が喪失する結果にもつながったことなどを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に記したように、①の論点については、『昭和天皇拝謁記』の翻刻刊行作業を通して、重要史料の刊行に貢献するだけでなく、本研究課題に関連した記述の抽出作業も進めており、基礎的な作業が順調に進捗している。②についても、学会大会で報告を行ったほか、論文にまとめ査読雑誌に投稿し、掲載が決定した。 その他、元帥府の構成員であり、かつ大正期に首相も務めた寺内正毅について、関係文書の翻刻プロジェクト(寺内正毅関係文書研究会)に従来から参加している。本年度は、『寺内正毅関係文書』第二巻(東京大学出版会)の翻刻刊行作業に従事し、無事に刊行された。本史料も研究遂行課題の検討に活用している。 以上のような研究成果の公表や新史料の翻刻刊行を踏まえて、研究課題は概ね順調に進展していると評価できると考える。
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今後の研究の推進方策 |
①の論点については、次年度も『昭和天皇拝謁記』や田島道治関係史料の翻刻編集作業に継続的に参加し、刊行に尽力していきたい。それと同時に、史料内容について各機関所蔵の周辺史料と突き合わせながら、戦後における昭和天皇と軍隊の関係性を抽出する作業を進めていきたい。とりわけ、昭和天皇と宮中側の政治関与に対する認識や、再軍備を推進する旧軍人勢力の動向について重点的な検討作業を進めることを目指す。 ②の論点については、これまでの研究成果を踏まえて、昭和戦時期の軍事輔弼体制の展開過程についての検討を行う。特に日中戦争以降、政戦略一致戦争指導体制戦時期に台頭した元帥府復活構想を分析対象として、当該期の戦争指導体制の確立という政治的課題における軍事輔弼体制の意義を考察していきたいと考える。引き続き、論文などの形で研究成果お公表を目指すとともに、新史料の発掘・公表にも積極的に取り組んでいきたい。
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