本年度は、研究実施計画に基づき、①戦後の象徴天皇制と軍事の関係性、②明治期から昭和戦時期にかけての軍事輔弼構造の解明について研究を進めた。 ①については、昨年度まで翻刻・校正を担当した田島道治『昭和天皇拝謁記―初代宮内庁長官田島道治の記録―』(全七巻、岩波書店)をもとに、戦後における昭和天皇と軍隊の関係性を抽出する基礎作業を進めた。具体的には、旧軍関係者による再軍備論と天皇統帥権復活論、昭和天皇退位論など、旧軍人勢力の動向について検討を行った。その過程で東京裁判での天皇の戦争責任論を調査した結果、天皇の軍事顧問機関である元帥府・軍事参議院の機能について、検察側が天皇の戦争責任と絡めて関心を持ち、東条英機や木戸幸一など軍・宮中関係者に尋問を繰り返していた事実を発見した。この内容は、昭和天皇の戦争指導とも密接に関連するため、②の論点と絡めて実証研究を進めている。 ②については、本年度は主に昭和戦時期の軍事輔弼体制の変容について重点的に分析した。分析に際しては、国立国会図書館、国立公文書館、防衛省防衛研究所戦史史料研究センター、宮内庁宮内公文書館、靖国偕行文庫、名古屋大学、東京大学、学習院大学、成蹊大学、筑波学院大学などの各機関所蔵の公文書や個人文書、図書類を悉皆的に調査した。具体的には、昭和戦時期の昭和天皇や東条英機首相による元帥府復活過程を分析することで、戦争指導体制の強化を目的とした軍事輔弼体制の再構築が試みられた過程とその意義を考察した。以上の成果の一部は、『史学雑誌』に論文として掲載された。また、これまでの軍事輔弼体制に関する研究成果は、名古屋大学出版会から研究書として出版することが決定し、現在出版に向けての準備を進めている。
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