研究課題/領域番号 |
21J01732
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
上田 遥 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 潜在能力アプローチ / 食の倫理 / 徳倫理 / 栄養主義 / 母子世帯 / 食の貧困 / 善き食生活 / 卸売市場 |
研究実績の概要 |
2021年度は以下3つの研究を実施した。 1) 日本における「善き食生活well-eating」言説(日本型食生活、和食、健康的な食生活など)の変遷史について文献調査を進めた。1970年代以降の食言説では栄養主義的傾向が強くなっており、その結果として食のトータル性が見逃されていることを明らかにした。また並行して、食倫理研究のレビューも行い、こうしたトータルな意味でのwell-eatingへの視点を復活させるためには、アリストテレスやヌスバウムの系譜に由来する「徳倫理virtue ethics」の方法論が活用できることを示した。これらの成果の一部は紀要論文1件(『立命館食科学研究』)に公表した。 2) 現在時点における日本市民の食生活「規範」と「実態」を明らかにするため、経済・時間的制約が大きいことが指摘される母子世帯(三大都市圏在住)にin-depthインタビュー調査を実施した。あわせて本調査結果を、20年度に実施した一般市民973名を対象とした同様の質問項目から成るWEBアンケート調査の結果と比較しながら分析した。未だ分析作業は完了していないが、語彙分析により抽出した108種類の活動・状態から成るwell-eatingの網羅的リストについては国際論文1件(『Appetite』)、社会的属性とwell-eatingとの内容関連については国内学会報告1件(「栄養改善学会」)、回答者のうち経済的貧困者の詳細な食生活実態については国内学会報告1件(「日本農業経済学会」)として公表した。 3) 日本市民のwell-eatingに決定的な影響を与える地域の食環境について、共同研究者とともに、京都市を中心とした卸売市場の役割をCOVID-19の影響とあわせて分析した。同調査結果は国内論文2件(いずれも『フードシステム研究』)、シンポジウム報告1件(日本フードシステム学会)として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID-19の影響により教育機関へのアクセスが制約されたため、当初予定していた子ども・若年層へのインタビュー調査は実施できなかった一方で、女性支援団体と協力して母子世帯を対象としたインタビュー調査を実施できたことはその実態解明および理論的示唆の両面において意義が大きかった。文献調査および食環境調査については当初予定した通り進展している。
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今後の研究の推進方策 |
22年度もCOVID-19の影響が予想されるため、調査リスクの高いインタビュー調査ではなく、昨年度収集したデータ分析とさらなる文献調査(とりわけ①日本的自然観と近代栄養学の位置付け研究、②マクロ統計項目からの食潜在指標の開発、③栄養学・経済学・社会学における食生活変換要因の体系化)に注力する予定である。
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