最終年度は、以下3つの研究課題に取り組んできた。1)現代日本の「善き食生活」の中心的内容となっている家族主義的規範(主食主菜副菜、共食、1日3食など)形成および脱構築(崩食)プロセスを既存統計および関連論文を用いて解明した。2)ブータンの国民総幸福指数(GNH)に用いられる多次元型well-being測定手法を応用して、現代日本における「善き食生活」の統合指標化を行った。測定の結果、「4人に2人」が豊かな食生活を送っていること、年齢格差・性別格差が大きいこと、所得格差は認められないことが明らかになった。3)日本の「善き食生活」の内容を相対化させるため、前年度の台湾調査に引き続き、本年度は中国人消費者(20-60歳代男女)を対象にした食生活アンケート調査を実施・分析した。「激動の中国」とはいわれるが、食の再帰的近代(第二の食の近代)の典型症状である「崩食」現象はまだ顕著化していないことを明らかにした。 食の豊かさは人それぞれで曖昧である、こうした従来の見解から一歩踏み出すため、本研究では2021-2023年度の3年間をかけて、現代日本における「食の豊かさ」の歴史的変遷、理論的基礎、全国市民アンケート調査やシングルマザーへのインタビュー調査からアクチュアルな食生活の実態把握に努めてきた。本研究の最も重要な結論が、現代日本では「経済的に裕福であるからといって、食生活も豊かになるとは限らないこと」を明らかにしたことである。そして、こうした結論は潜在能力アプローチを基礎にした「食の豊かさ」の統合型指標の開発という手法的前進により可能になった。これらの成果は(別の科研費課題「食の貧困」の成果とあわせて)『食の豊かさ 食の貧困:近現代日本の規範と実態』(24年夏季出版、科研費出版助成)としてまとめることができた。
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