様々な天文観測から、我々の宇宙には暗黒物質と呼ばれる未知の物質が通常の物質の5倍以上存在すると言われている。その中でも有力な候補が未発見の素粒子で、質量が重く弱い相互作用程度のスケールで核子と相互作用するWIMPや、電子と弱く相互作用するアクシオン様粒子(ALP)などが挙げられてきた。 本研究では、イタリアで行われる国際実験XENONnT実験により、キセノンと暗黒物質のごく稀な相互作用を通して暗黒物質探索を行った。研究期間全体を通して主に、XENONnT実験の検出器に関するコミッショニング、物理データ取得およびその解析に取り組んだ。XENONnT実験は2021年度から初期観測を開始しており、報告者はイタリアに長期滞在、現地の運転責任者としてクリプトンや中性子を用いたキャリブレーションデータの取得や、検出器にかける電圧の最適化など、安定的なデータの取得のための取り組みを指揮した。また得られたデータの解析として、特に検出器中のキセノン純度の影響を明らかにし、2022年度には太陽アクシオンやALPなどに関して世界最高感度の探索結果を発表している。2023年度には、同データを用い最も重要なモデルであるWIMPに関しても前身実験の感度を約2倍更新する探索を行うとともに、太陽から飛来するニュートリノ事象の探索など暗黒物質にとどまらない物理・天文現象の観測にも取り組んだ。 また並行して、名古屋大学における小型装置を用いたXENONnT実験の将来計画に関するR&Dにも取り組んだ。キセノン純度のさらなる向上のため、ラドンやトリチウムといったキセノン中の放射性不純物を削減するとともに、微量な不純物を定量的に測定するための技術開発に取り組み、日本物理学会などで発表を行なっている。
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