研究課題/領域番号 |
21J20717
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
須賀 永帰 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | レヴァント地方 / 旧石器時代 / Schmidt Hammer / 反発硬さ / Rockwell硬さ / 剥離予測性 / 石器の小型化 / 石器石材選択 |
研究実績の概要 |
中部旧石器時代後期から上部旧石器時代前期(6万~3万年前)におけるレヴァント地方は旧人と現生人類が同時期に共存していた、人類進化における要衝である。その文化、特に遺跡から出土する遺物の大半を占める石器に着目すると、上部旧石器時代前期に小型石器の比率が上昇していることが大きな変化の一つである。しかしながら、石器の材料となる石材の研究は、利用石材がチャート単一のせいか、地質学的手法から採集場所を明らかにする産地同定の研究がほとんどである。そして、その剥離のしやすさにおいては、粒の細かい(fine-grained)チャートを「質」が高い、粒の粗い(coarse-grained)チャートを「質」が低いと定性的に評価しているだけである。 申請者はこれまでの研究の中で、fine-grainedなチャートとcoarse-grainedなチャートを定量的に分類し、その比率の変化を見た。その結果、小型石器の増加に伴い、fine-graiendなチャートの割合が上昇していることを明らかにした。変化の理由として、チャートの見た目によって硬さが異なるためではないかと着想した。そこでSchmidt Hammerを用いて反発硬さを昨年度のヨルダンでの調査で測定した。結果的に、チャート間では反発硬さに差は見られなかった。そこでRockwell硬さを測定し複数の方法でチャート間の硬さに差があるのかを検証した。結果、チャート間でRockwell硬さに違いがあることが分かった。fine-grainedなチャートの方が少ない力で剥離できると考えられる。製作したい石器に合わせて石材を選択していたものと思われる。本研究では石器石材の物性を実際の石器群の変化に当てはめて議論している数少ない事例である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請した際の内容とは違う方向性で研究を行っているが、おおむね順調に進展している。石器石材間(チャート同士)のSchmidt Hammerで測定した反発硬さの差を提示する研究は、前年度中に論文投稿を行うことを計画していた。しかしながら、8月の調査で取得したデータはチャート間で差が見られず、単独で論文を成立させるのが難しいものであった。そこで、別軸のRockwell硬さも測定し、複数の手法で検証して本当に差がないのか、結果の妥当性を示すことを試みた。分析の結果、チャート間で硬さに差が見られた。データを考察する中で、計測手法によって異なる結果が得られた妥当な理由についても見解をまとめられた。このように当初の予定とは違う形にはなっているが、その都度方向性を修正して、論文化を意識しながら研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に行ったSchmidt Hammerによる反発硬さの測定とRockwell硬さ測定分析の結果を基に、SCIに収録している学術誌に論文を投稿する。また、6月下旬には日本旧石器学会でRockwell硬さ測定に関する研究成果をポスター発表する予定である。8月~9月にヨルダンでの調査を実施し、現状でサンプル数の少ないデータを中心にサンプルの収集およびデータの蓄積を行う。さらにこれまでの発表論文や追加の分析結果を博士論文に取りまとめる。1~2月は博士号の審査会のための準備を進める。また、研究を進めていく中で考え方の主軸として、打製石器石材の剥離予測性という概念を整理した。これらの概念・研究手法・その有用性を原稿に取りまとめ、日本の考古学の学術誌にレビュー論文として投稿するための準備を並行して行う。
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