中部旧石器時代後期から上部旧石器時代前期(6万~3万年前)におけるレヴァント地方は旧人と現生人類が同時期に共存していた、人類進化における要衝である。その文化、特に遺跡から出土する遺物の大半を占める石器に着目すると、上部旧石器時代前期に小型石器の比率が上昇していることが大きな変化の一つである。しかしながら、石器の材料となる石材の研究は、利用石材がチャート単一のせいか、地質学的手法から採集場所を明らかにする産地同定の研究がほとんどである。そして、その剥離のしやすさにおいては、粒の細かい(fine-grained)チャートを「質」が高い、粒の粗い(coarse-grained)チャートを「質」が低いと定性的に評価しているだけである。申請者はこれまでの研究の中で、小型石器の増加に伴い、fine-graiendなチャートの割合が上昇していることを明らかにした。変化の理由として、チャートの見た目によって硬さが異なるためではないかと着想した。 2022年度にヨルダンで野外調査を実施し、チャートの見た目が異なると硬さが違うのかを検証するためにSchmidt Hammerに反発硬さとRockwell硬さの測定を行った。その結果、Rockwell硬さでは差がみられた。石器によって利用されているチャートが異なっており、当時の人類はチャートの硬さを経験的に理解し、使い分けていた可能性が考えられる。 2023年度はこれらの成果を原稿にまとめて、Journal of Paleolithic Archaeologyに投稿した。そして査読の結果、掲載が決定された。
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