研究課題/領域番号 |
21J21295
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
趙 書心 名古屋大学, 人文学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
|
キーワード | ジェンダー / セクシュアリティ / クィア・スタディーズ / レズビアン / 日本文学 / 中国文学 / 東アジア |
研究実績の概要 |
2021年度は、新型コロナウィルスの影響で、海外での調査を実施することができなかった。そのため、当初予定していた渡航を延期し、A)研究成果の論文化と、B)日本国内での資料調査の2つの作業に取り込んだ。研究実施の状況は以下の通りである。 A)としては、修士論文以来調査を続けていた<大正期日本の女性同性愛言説>について、査読論文を2本発表し、口頭発表を1回行った。具体的には、女性同性愛に関する議論が大正期の女性解放論者の周辺に発生したという歴史的背景を糸口に、当時代表的な女性雑誌『青鞜』と『番紅花』を取り上げ、同性愛をめぐる言説空間の変容を考察した。論文「『青鞜』におけるレズビアニズムの再考――掲載小説を手掛かりにして」(『女性学』29号、2022.3)において、同誌におけるレズビアン小説を対象に、女性同性愛の社会問題化が女性による同性愛の認識と自己表出を複雑化した事態を浮かび上がらせ、なかでも外部の言説を受け入れつつも同性間の性的欲望を承認する動きを明らかにした。また、口頭発表「女性解放とレズビアニズムの間」(第9回東アジアと同時代日本語文学フォーラム、2021.10.17)と論文「女性解放とレズビアニズムの間――『番紅花』における女性同性愛言説をめぐって」(『人文学フォーラム』5号、2022.3)において、女同士の親密性を性器的欲望と遠ざけることによって女性同性愛の社会的承認を求めるという同誌の言論活動を明らかにした。 B)としては、吉屋信子などの女性作家を対象とする事例研究に向けて、関連資料の調査と分析を開始した。具体的には、吉屋信子が戦前期に発表しかつ、全集に収録されていない作品のデータベースを作成した。また、時代背景に関しては、女性同性愛に関する報道記事を同時代の性科学関連雑誌と新聞(全国紙)より収集した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度はコロナ禍により海外調査は叶わなかったが、日本国内での文献調査を行うことで十分な研究成果を獲得し、さらに複数回にわたる成果発表の機会を得ることができた。大正期を研究対象とする2本の論文発表と1本の口頭発表により、戦前期女性同性愛言説の再構築という研究計画の一部を完成した。さらに、それと並行して、調査期間を昭和時期へ進めた。女性作家を対象とする事例研究を開始し、関連資料の調査と収集を完了した。以上のように、本年度は海外調査の制限はあったものの、研究成果の発表を達成し、さらに集中的な文献調査により新規研究を推進することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度は引き続き、戦前期を対象とする研究を進める。まず、マクロ的な視点から言説研究として、一般新聞雑誌における同性心中などの記事と、性科学誌など専門雑誌における文章の二つの軸に沿って文献調査を行い、昭和時期期女性同性愛言説の再構築を試みる。また、ミクロな視点からの事例研究として、吉屋信子などの女性作家とその作品を考察し、研究成果を論文化する。さらに、海外渡航が可能な場合、延期した調査を1月から3月に実施する予定である。
|