研究課題/領域番号 |
21J21725
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
仲井 文明 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 粉体 / シミュレーション / 確率過程 / ダイナミクス / 統計力学 / 拡散 / ブラウン運動 |
研究実績の概要 |
衝突の統計に基づいて,棒状粉体により構成される流体のタイナミクスを理論的に記述することを目指している.2021年度は,単純な系として,散逸がない棒状粒子の運動をシミュレーション解析し,球状粒子の衝突統計を理論解析した. シミュレーションについてはイベントドリブン型のものを実装する計画だった.しかし,必要とされるシステムサイズで計算することが困難だと分かり,運動方程式を逐次解くアルゴリズムを実装した.得られたアルゴリズムで衝突時間間隔の分布や衝突による重心速度・角速度の変化の分布といった衝突統計を得た.さらに,棒状粒子の運動を特徴付ける時間相関関数を得た.これらを高精度に得るために,2021年度に経費で購入したワークステーション及び研究室のクラスター計算機を用いて大規模計算を実施した. 理論については衝突統計に基づいて球状粒子の運動を解析した.2020年度に導出した粒子の衝突時間,衝突角度,衝突相手粒子の速度に関する同時生起確率にBurshtein-Krongauzの更新過程の方法を適用した.得られた結果を気体分子運動論の理論結果と比較して妥当性を検証した. 以上の過程で,シミュレーションと理論双方で予想外の発見があった.シミュレーションに関しては,棒状粒子の拡散性が数密度に対して非単調に変化することを発見した.この振る舞いは,球状粒子とも溶媒中の棒状粒子とも異なっており統計力学の観点から興味深い.理論に関しては,空間的に均一な球状粒子気体の拡散がある条件下で長時間に渡って非ガウスになることを見出した.この振る舞いは,過冷却液体,アクティブマター,高分子のような空間的な不均一性や分子の異方性を内在する流体でのみ発現すると考えられていたためインパクトは大きい.得らた成果を,国内学会で2件,国際学会で1件(Pacifichem)発表した.論文投稿も予定している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2021年度は,棒状粉体より単純な散逸がない棒状粒子及び球状粒子気体の2種の系に対してシミュレーションアルゴリズムの構築及び衝突統計の理論解析を遂行した.特に,得られた棒状粒子のシミュレーションは,本研究課題遂行に当たって中核的な役割を果たすものである. 加えて,当初は棒状粉体より単純な2種の系で非自明な現象は生じないと考えていたが,研究実績の概要に示したように,予想外にも2種双方の系で興味深い現象が発現することを見出した. 以上のように,シミュレーションと理論解析は順調に進み2つの予想外の興味深い結果も得たことから,本年度の進捗は当初の計画以上に進展しているものと考える.
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今後の研究の推進方策 |
研究課題遂行及び,研究実績の概要で示した新規現象2種の解明を目指す.具体的には以下の3つを実施する. 1.棒状粒子のシミュレーションに散逸の効果を導入することで,棒状粉体を扱えるように拡張する.得られたアルゴリズムで,2021年度に購入したクラスター計算機を用いて大規模シミュレーションを実施し,棒状粉体の運動を解析する.得られた結果を衝突統計の観点から理論的に理解することを目指す. 2.2021年度に発見した,平衡系における棒状粒子の拡散係数の数密度に対する非単調性の理論的記述を目指す.まずは,衝突統計に基づいて解析を実施する予定である.困難な場合は,剛直性高分子を記述する管モデルを参考にして,現象論的な解析を実施する. 3.2021年度に発見した,球状粒子気体の長時間に及ぶ非ガウス的拡散に関しては,揺らぐ拡散係数の観点から理論的記述を試みる.こちらは既に発現機構を明らかにしており,理論的記述に困難はないと見込んでいる. 得られた成果についてそれぞれ学会と論文で発表する.
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