研究課題/領域番号 |
21J22257
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
栗本 道隆 名古屋大学, 創薬科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | がん / アルカロイド / 現地合成 / 糖鎖 / 人工金属酵素 |
研究実績の概要 |
ピロリジジンアルカロイド類(PAs)は肝臓の代謝酵素によってdehydro-PAsに酸化され、これがアルキル化作用を示すことで肝毒性を引き起こす。我々はこのdehydro-PAsを、肝臓を経由することなく、がん細胞上で合成しようと考え、「現地合成」を応用することにした。がん細胞近傍に配置される機能を示す糖鎖付加人工金属酵素(GArMs)を利用し、天然物PAsとは構造の異なるプロドラッグからdehydro-PAを「現地合成」できれば、副作用のない新たながん治療法となり得る。市販のアミノ酸から17工程で合成したプロドラッグ候補化合物は、試験管中において金触媒による環化反応が進行し、dehydro-PAを与えることを見出した。さらに、同様の変換が細胞上においても可能であることを見出した。そこでがん細胞を用いてプロドラッグの細胞活性評価を行ったところ、プロドラッグは金触媒存在下において特異的な増殖阻害活性を示した。次にGArMsを用い、プロドラッグの細胞活性評価を行ったところ、細胞選択的な増殖阻害活性を発現した。すなわち、糖鎖と相互作用を示したがん細胞近傍に金属酵素が配置され、それによってプロドラッグからdehydro-PAsに「現地合成」されることで、標的としたがん細胞に対する選択的な毒性を発現させることに成功した。本成果は、生体内に応用することができれば、新たながん治療の手法となり得、また過去に毒性が問題となり抗がん剤開発が中止された分子であっても、「現地合成」を活用することで新たながん治療へと用いることができる可能性を示唆している。本成果は、論文にまとめ発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、設計したプロドラッグの合成・活性体への変換・細胞選択的な増殖阻害活性を実現し、本研究成果を論文にまとめ発表した。さらに新たなプロドラッグの合成にも取り組んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
現在はより高い抗がん活性を有し、実際の医療現場でも用いられている天然物ビンブラスチン(VBL)を、がん細胞上で「現地合成」しようと考え、プロドラッグの合成に従事している。具体的にはD環が開環したビンブラスチン(開環型VBL)をプロドラッグとして設計し、ルテニウム触媒を用いた環化反応により、VBLをがん細胞上で「現地合成」する計画である。開環型VBLは、開環型ビンドリンとカタランチン誘導体のカップリング反応を利用することで、その合成が達成できると考えられる。しかし現在までに多数報告されているビンドリンの化学合成においては、D環構築が、他の環構造の構築と官能基の導入に必要であるため、D環構築を必要としない新たな合成経路の開拓が必要となる。現在までに私は、D環が存在しないことで生じる合成上の課題を明らかにし、それに対し合成後半で開裂させることが可能な「仮の」D環を利用することで、開環型ビンドリンの合成を進めている。
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