研究課題
本研究は抗体医薬品の生産現場で重要となる、宿主細胞の抗体生産能をリアルタイムに評価する技術の開発を目標とする研究である。当該年度の前年度は、抗体生産能の低下および向上を起こした培養条件を用いた実験を行い、培養中の細胞画像を取得した。細胞形態の解析によって各培養条件において細胞形態が変化していることが確認された。当該年度はさらなるデータ解析を行い、細胞形態のみから抗体生産能を予測させる機械学習モデルを構築した。特に、これまで行ってきた経時撮影でなく、ワンポイントの撮影による画像データのみから品質変化を検出したことから、目標であった「細胞品質低下のリアルタイムな検出系の実現」に対して重要な進捗を示した研究であるといえる。また、抗体生産能が向上した培養条件で増える細胞形態及び抗体生産能が低下した培養条件で増える細胞形態が確認された。このような集団内のばらつき評価は、製造現場で求められていながらも現状の測定機器では困難な評価であるため、本結果は社会的意義が高いと考える。本研究は抗体医薬品製造における宿主細胞の抗体生産能を評価するための画像解析技術の有効性を初めて実証した報告だと言え、論文化まで進めた。また、宿主細胞であるCHO細胞の形態と細胞品質の生物学的機構を解明する研究までは進まなかった。これまでの研究でもCHO細胞の抗体生産能と細胞形態の関連性についての知見は少ない。数少ない報告では、培地の浸透圧や添加剤によって細胞の大きさと抗体生産能が変化した事例が示されているが、大きさ以外に注目した研究はほとんどない。本研究では大きさ以外に細胞内部の模様が抗体生産能の予測に大きく関与していることが示され、模様は細胞小器官を示していると思われる。今後、細胞の染色などによりどういった細胞小器官が品質に関係しているか解明することで、形態と品質のさらなる理解が深まることが期待される。
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Journal of Bioscience and Bioengineering
巻: ISSN 1389-1723 ページ: 00031-8
10.1016/j.jbiosc.2024.01.011