現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで四肢動物種間で保存された配列を参考に同定したエンハンサーであるb領域は、Gdf11が発現する組織を含む領域でエンハンサー活性を持ち、ノックアウトマウスの表現型から、仙椎-後肢ユニットの位置決定に必須であることが明らかとなっていた。本年度はb領域ノックアウトマウスの内在性のGdf11の発現量とGdf11の下流の遺伝子であるHoxd11の発現量の解析と、ニワトリ胚を用いて、b領域のエンハンサー活性と内在性のGdf11の発現を制御する上流因子の同定を行った。 ノックアウトマウスを用いた実験の結果、b領域ノックアウトマウスでは、E8.5, E9.5胚における内在性のGdf11の発現量が減少し、E9.5胚におけるHoxd11の発現量も減少していた。これらの結果から、b領域は内在性のGdf11の発現に必須であり、Gdf11のエンハンサーのひとつであるとことが分かった。 b領域内に存在した転写因子結合予測配列から、上流因子候補として、FGFとWntシグナル量、Hox遺伝子が挙げられた。本年度は特にHox9パラロガスグループに着目して解析を行った。Gdf11の発現開始タイミングを規定するためには、上流因子はGdf11に先立って発現をしている必要があるため、まずHox9パラロガスグループの発現タイミングを解析した。その結果、マウス胚、ニワトリ胚ともに、Hoxa9, Hoxb9がGdf11の発現に先立って発現することが明らかとなった。Hoxa9, Hoxb9がb領域のエンハンサー活性と内在性のGdf11の発現を制御するかを調べるため、ニワトリ胚を用いた実験を行った。その結果、Hoxa9はb領域のエンハンサー活性を正に制御し、内在性のGdf11の発現に必要だが十分でないことが明らかとなった。以上より、本年度はGdf11の発現を制御するエンハンサーの一つと上流因子の一つを同定することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
現在、Gdf11の上流因子候補のうち、Hox遺伝子以外のFGFとWntシグナルがb領域のエンハンサー活性と内在性のGdf11の発現を制御するかどうかを調べるため、ニワトリ胚を用いた解析を行っている。具体的には、FGFとWntシグナル量を変化させた際のb領域のエンハンサー活性の変化をレポーターアッセイで、Gdf11の発現量の変化をin situ hybridization法とRT-qPCRを用いて解析する予定である。 また上記のb領域以外にも、b領域の近傍に四肢動物種間で高度に保存された領域であるa領域とc領域が存在する。これらはb領域とは異なり、エンハンサー活性を持たないが、四肢動物種間で高度に保存されていることから、Gdf11の発現開始タイミングを決めるための重要な機能を持っていることが予想される。現在、領域a, b, cを含む領域(Δabc)をノックアウトしたマウスを作製し、表現型解析を行っている。その結果、Δabc領域はGdf11のエンハンサーを含んでおり、後肢の位置決定に必須であることが明らかとなった。種間で保存された領域はa, b, c領域しかないこと、Δabc領域ノックアウトマウスの表現型は、Gdf11ノックアウトマウスの表現型を模倣できないことから、Gdf11の発現を制御する種特異的なエンハンサーの存在が示唆される。そして、そのうちのいくつかはΔabc領域内に存在していることが示唆されたため、この領域を中心に解析を行っていく予定である。 種特異的なエンハンサーの候補領域を探索するため、マウス、ニワトリ、スッポン、シマヘビの初期胚を用いてATAC-seqを行い、その結果を次世代シーケンサーを用いて解析した。その結果をもとに、エンハンサー候補領域を選定した。現在、レポーターアッセイを用いて、各領域のエンハンサー活性の有無を解析中であり、来年度も継続して行う予定である。
|