研究課題/領域番号 |
21J23576
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
榊原 涼太郎 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 二次元物質 / グラフェン / 炭化ケイ素 / インターカレーション / セレン化鉄 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、二次元超伝導物質FeSeをグラフェン/SiC界面に安定的に作製する手法を確立することである。令和3年度ではFeSe作製の前段階として、Feインターカレーションによるグラフェン/SiC界面でのFe二次元膜作製を試みた。令和4年度では引き続きFeインターカレーションに着目するとともに、得られた試料をSe雰囲気中で加熱するための装置の開発にも注力した。 Feインターカレーションの実験手順としては、SiC単結晶基板の表面に均質に作製した炭素原子層に対してFe蒸着を行い、高真空中で加熱した。蒸着膜厚と加熱温度をパラメータとして条件検討を行った結果、Feインターカレーションのための最適な実験条件が明らかとなってきた。得られた試料に対して透過型電子顕微鏡を用いて界面構造の直接観察を行った結果、実際にグラフェン/SiC界面でFeが二次元的に形成していることが確認された。今後はより詳細な条件検討を行い、さらに高品質かつ均質な試料の作製を目指す。このような試料では磁気異方性や電子構造の変調といった興味深い物性が発現する可能性があるため、物性評価にも集中的に取り組む予定である。 また、次のステップとして、Feインターカレーションを施した試料をSe雰囲気中で加熱する実験を行う予定であるが、そのための装置開発も行った。予備実験の結果、試料の表面に対してSeを反応させられることが明らかとなった。今後はこの装置の改良を進め、本研究の最終目標であるFeSe作製に本格的に取り組む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究のスキームは2段階からなる。前半はグラフェン/Fe/SiC構造の作製、後半はグラフェン/FeSe/SiC構造の作製および物性評価である。 現在、上述の研究実績に記載の通り、グラフェン/SiC界面におけるFe二次元膜の形成が透過型電子顕微鏡観察によって直接的に確認できた。従って、前半部分の目標については十分達成できたといえる。また、このグラフェン/Fe/SiCヘテロ構造では磁気特性や電子構造において興味深い物性が発現する可能性があるため、角度分解光電子分光などの測定によって引き続き調査を続ける予定である。 研究スキームの後半部分としては、グラフェン/Fe/SiC試料をSeガス中で加熱できるような実験装置を開発した。予備実験により試料表面でSeが反応していることを示唆する実験結果が得られた。今後はさらに装置の改良を進め、本格的に界面でのFeSe作製に注力する。 従って、進捗状況としてはおおむね順調といえる。
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今後の研究の推進方策 |
透過型電子顕微鏡によってグラフェン/Fe/SiCヘテロ構造の形成を確認したが、この手法では数百ナノメートルの領域しか観察ができず、ミリメートルスケールで均質にこのヘテロ構造が形成しているかについては現時点で明らかでない。また、このようなヘテロ構造では興味深い物性が発現する可能性があるが、現時点では詳しいことはわかっていない。そのため、電子回折や光電子分光といった比較的広範囲で測定を行う手法を用いることで、試料の均質性の評価ならびに物性に関する詳細な議論を行いたい。これらの測定は共同研究先のグループと協働で行う。 そして、Se雰囲気中で試料を加熱できるような装置を開発済であり、予備実験まで完了しているため、今後は上記の実験と並行して、本研究の最終目標であるグラフェン/SiC界面でのFeSe作製を本格的に目指す。具体的には、装置の改良に加え、Seの導入量や加熱温度をパラメーターとした条件検討を行う。得られた試料について、主に光電子分光と透過型電子顕微鏡によってキャラクタリゼーションを行う。大面積かつ均質な試料が得られた場合には、低温電気抵抗測定や角度分解光電子分光による物性評価も行う。
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