研究課題/領域番号 |
21J40239
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
櫻田 智恵 名古屋大学, 人文学研究科, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | タイ / 東南アジア / 君主制 / 国王 / プーミポン / イメージ戦略 / ニュース映画 |
研究実績の概要 |
本研究では、前国王の権威形成に、王妃シリキットをはじめとする女性王族が重要な役割を果たしたことを実証することを目指す。タイの理想的国王観は、仏教的価値観に基礎を置くが、前国王のもうひとつの重要なイメージである「国父」のイメージの形成・定着の家庭については論じられてこなかった。そこで本研究は、この点を明らかにすることを目指し、女性王族の「国母」としてのイメージ形成の過程を追うことで、これを解明しようと試みるものである。初年度は、特に資料収集を行うことを目標とし、具体的には以下2点の活動をおこなった。 ①イメージ戦略における女性王族の役割 女性王族関連の雑誌・新聞記事や「陛下の映画」関連フィルムなどのメディア分析を行った。当初、「陛下の映画」のフィルムは現地調査で収集する予定であったが、新型コロナウイルスの影響で現地に行くことができず、原本の収集は困難であった。しかし、チュラーロンコーン大学のデジタルコレクションが、新たに「陛下の映画」関連の映像を公開したことから、この映像を使った分析をおこなった。また、雑誌の収集を行う過程で、プーミポン国王のイメージ戦略においては、シリキット王妃が重要であると考えてきたが、王太后(母)シーナカリンも共に重要な位置を占めていることが明らかになってきた。彼女は、タイと居住地であったスイスとの間を往復しながら、ヨーロッパでも多くのメディア取材を受け、人脈を形成していた。これについて、さらに資料を収集し、調査する必要性が浮かび上がってきた。 ②女性王族の親族の政治・経済への関与 タイにおいて有力者の葬儀の際に配布される『葬式本』の収集を主におこなった。その上で、『官報』から女性王族の親族らの職歴等についての来歴を整理し、情報のリスト化をすすめてた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルスの影響を受け、現地調査が困難であったことが主な原因である。現地調査によって「陛下の映画」のフィルムを収集予定であったが、これができなかった。また、国立国会図書館の資料室や各図書館の資料室が、長く閉館状態だったこともあって、タイ人協力者への資料収集の依頼のスムーズにいかなかった。 ただし、これらの問題は新たにインターネットで閲覧可能になった映像資料や文書資料を使うことで、多少解消されてきており、引き続き調査を継続する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は主に、イメージ戦略において女性王族が果たした役割に関する分析をすすめ、その成果を論文等で発表する計画である。 これまでの調査から、王妃は、1960年代末から行幸中に前国王と別行動を取り、女性の就労支援や生徒らとの交流などによって「国母」としての存在感を増したと考えられる。王妃の誕生日が「母の日」になったのは 1976 年で、国 王の誕生日が「父の日」に制定されるより 4 年も早いことも、それを示している。 また王太后は、独自の医療団を引き連れて積極的に行啓し、その貢献により国民の「祖母」とされ、頻繁にメディアの取材を受けている。加えて、平民出身という点で、国民の良き理解者とされた。「国母」王妃と「国民の祖母」王太后 は、「国父」プーミポンのイメージを補完し、王室と国民とを家族的国家像によって結びつける役割 を担ったと考えられる。これを、マス・メディアの詳細な分析から明らかにする。2年目である今年度は、タイ国内の資料のみならず、王太后が居住したスイスをはじめとするヨーロッパ諸国の雑誌等の調査を行う予定である。
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