今までの研究で、四塩化炭素誘発急性肝障害モデルマウスにおいて、MC4Rシグナルの阻害は肝障害の回復を遅延させ、肝臓に浸潤するマクロファージ(MΦ)のサブタイプが変化すること、死細胞クリアランスが抑制されることを見出した。つまり、視床下部のMC4Rシグナルは摂食の調整だけでなく、肝臓の炎症を調整していると考えられる。しかしながら、中枢MC4Rシグナルが肝臓MΦの性質を制御する機序は不明であった。 MC4R欠損者の尿中ノルアドレナリン(NA)濃度が低下し(N Engl J Med . 2009; 360:44-52)、またはMC4R欠損マウスでは交感神経の感受性低下が示唆されている(Cell.2018; 175:1321-1335)。以上を踏まえて、今年度は、アドレナリン(Adr)β2受容体欠損マウスやMC4R欠損マウス、カテコールアミンなどの物質を用いて、中枢MC4Rシグナルによる肝臓MΦの性質制御機序における交感神経の関与を検討した。その結果、MC4R欠損マウスでは肝臓の交感神経の活性の低下が認められた。また、MΦではアドレナリンサブタイプの中Adrβ2受容体を高発現することからAdrβ2シグナルを通してMΦの性質を制御すると考えられる。そして、Adrβ2受容体アゴニストによるAdrβ2受容体の刺激はMΦを抗炎症性へ誘導し、貪食能を上昇させた。さらに、Adrβ2受容体の欠損により肝障害からの回復が遅れることを見出した。 以上より、本研究では、中枢のMC4Rからのシグナルは交感神経を通して末梢のMΦに発現しているAdrβ2受容体を刺激することにより、MΦの性質変化をもたらし肝障害からの回復を促進していることを見出した。
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