現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
粗視化分子動力学法の枠組みの中で素性がよく知られており,高分子メルトの動的な特性をよく表現することが知られる粗視化Kremer-Grestモデルをベースとして,そこに高分子劣化の反応過程を取り込むというアプローチを取った.この方法は反応機構及び各種時定数をシミュレーションのインプットパラメータとして用意する必要があり,ここではポリプロピレン熱劣化の反応ダイナミクスを記述することに成功した先行研究(E. Richaud, F. Farcas, P. Bartoloméo, B. Fayolle, L. Audouin, J. Verdu, Polym. Degrad. Stab., 2006)のパラメータを参考にした.そのようにして構築されたシミュレーションの化学反応ダイナミクスはポリプロピレン熱劣化でよく知られる自己触媒的な振る舞いを定性的に再現することができており,その反応速度は分子運動のタイムスケール及び周囲の劣化進行度合いによって定数倍程度変化することがわかった.また,ラジカルを介して起こる自動酸化反応機構に複数の分子間反応が含まれることから,酸化劣化は本質的に空間的に不均一な現象であると考えられている.本研究でも,切断サイトの空間不均一性を確認することができた,さらには,その程度は劣化反応速度と分子運動の時間スケールのバランスから決定づけられていることを明らかにした.
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