研究課題/領域番号 |
22J13578
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
ZHANG Rongshi 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
|
キーワード | Nano-tendril Bundle / タングステン / ヘリウム |
研究実績の概要 |
ヘリウムプラズマと金属の相互作用により形成する金属繊維構造Nano-tendril Bundles (NTB)にはアークの誘発効果が確認される。2021年度は主にNTBの耐熱性や電界電子放出特性の調査を行った。真空加熱炉を用いて、タングステン表面に形成したNTB構造を赤外線によって加熱し、アニーリング(焼きなまし)によるNTBの形態変化を測定した。調査の結果、NTBは1573Kのアニーリングにおいて、著しい構造変化が確認された。NTBの先端は丸くなり、繊維が太くなると同時に、アニーリング処理後の試料からの電界電子放出電流は大幅に低減した。またアニーリング処理前のNTB試料表面では、ヘリウムプラズマ照射時に一時間あたり十数回のアークが発生したのに対して、アニーリング処理後のNTB試料表面ではアークは発生しなかった。この結果から、NTB形成によるアークを抑制するためには、アニーリング手法は有効であることが明らかとなった。 NTBの電界電子放出特性の構造依存性を精査するために、NTBの形成に関わる条件である不純物ガスの種類、割合、入射イオンエネルギーを変えることで、異なる構造を有するNTBをタングステンの表面に形成した。電界電子放出特性の測定において、NTBの先端が丸くなると、電界電子放出が弱くなる傾向が確認された。また、添加された窒素不純物の割合が増えることで、NTBの先端が丸くなる傾向が確認された。これらの結果から、NTBの電界電子放出特性が先端構造に大きく依存し、添加された不純物ガスを調整することで、形成されるNTBの先端構造を制御できる可能性がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していたNTBのアニーリング実験は順調に進み、アニーリングによるNTBの構造変化を確認し、その耐熱性が明らかになった。NTBの電界電子放出特性実験では、アニーリング処理によるNTBの電界電子放出電流の変化を評価し、構造変化と伴い、電界電子放出が著しく低くなることが明らかになった。また、電界電子放出特性に構造依存性に関する調査では、NTBの電解電子放出特性は先端のファイバー構造に強く依存することが明らかになった。プラズマ照射によるNTB形成試料表面での点弧頻度を計測した。その結果、アニーリング処理後はアーク点弧しなかったことから、アニーリング手法はNTB形成がもたらすダイバータへの悪影響を低減できる手法であると明らかになった。これらの成果は学術論文としてまとめ、公表した。 以上により、現在までの進捗状況は概ね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
NTBの表面構造が電界電子放出特性に重要な影響を与えると考えられる。今後は多種のガスを用いた時、不純物ガスの種類や割合を変えることでNTBの成長に与える影響を解明し、NTB表面構造の制御に試みる。また、分光計測を用いて、プラズマ中のイオン割合などの特性を精査し、NTBの形成に関わる物理過程の理解を深める。アーク点弧前後のNTB試料の質量を電子天秤で測定し、質量損失からアークによるタングステンの損耗を定量評価する。これにより、NTB形成時でのダイバータ板の損耗を見積もることで、核融合炉の設計に重要な知見を提供できると考えられる。
|