AdS/CFT対応は重力を含まない場の理論と重力理論との対応関係である.この対応関係に基づき,笠-高柳予想は量子もつれの大きさを定量化する指標であるエンタングルメントエントロピーを評価する方法である.特に,AdS/CFT対応を用いて与えられたエンタングルメントエントロピーをホログラフィックエンタングルメントエントロピーという.場の理論においてエンタングルメントエントロピーは物質の量子相転移を特徴付ける秩序変数となっている.一方で,AdS/CFT対応においてホログラフィックエンタングルメントエントロピーはブラックホールの情報理論的側面からの研究やAdS/CFT対応のメカニズムの理解において基本的な役割を担っている.よく知られた笠-高柳予想の導出の際には適当な二種の極限操作を行っているが,これらの扱いには注意が必要で笠-高柳予想の導出には疑問点が残る.そこで本研究は笠-高柳予想に代わり,ホログラフィックエンタングルメントエントロピーを与える手法の提案を目指している.そこで本研究ではホログラフィックエンタングルメントエントロピーが適当な極小曲面の組み合わせによって与えられることを仮定し,その適切な組み合わせを探った.具体的な系として,最も単純な系である二次元の共形場理論における二区間系および多区間系のホログラフィックエンタングルメントエントロピーを対応するAdS時空中の極小曲面により与える方法を提案した.
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