小型固定翼機は横風突風遭遇時に大きな姿勢角変化が生じやすいため,横風突風下での着陸時に重大な事故を引き起こす恐れがある.この問題を解決するために当該研究者は,固有運動(機体形状)の観点から姿勢角変化が生じにくい新しい固定翼機コンセプト「QNDD機」を提案した.本研究ではQNDD機の実現性向上を目的とし,以下の3つの研究項目に取り組んだ. (1)QNDD領域拡大:飛行性能を表現する数理モデルを構築し逐次線形二次計画法を用いて,主翼弾性変形を考慮した際のQNDD領域(安定微係数面でのQNDD性能維持可能領域)を最大化する機体形状を得た.得られた機体形状において,主翼は内翼,外翼にそれぞれ大きな上,下反角をもつガルウイング,尾翼はV字翼である. (2)飛行性能分析:機体形状変数(主翼内翼上反角,主翼外翼下反角,尾翼上反角)が変更可能な小型模型滑空機(全幅約600mm)を製作した.風洞試験によって本機体の安定微係数を測定し,上記3つの機体形状変数で決まる安定微係数を軸とする3次元等高面図を作成した.得られた3次元等高面図を基にQNDD性能を有する小型模型滑空機の形状パラメータを確定し,横風突風環境下での姿勢角変化量をモーションキャプチャにより測定した.測定結果より,QNDD機では方位角変化量が大きく低減される一方,横風突風遭遇後にロール方向に不安定な挙動を示す場合があることが明らかになった.この知見は,今後のQNDD機実現のプロセスで検討すべき,新たな課題である. (3)制御出力モーメント測定:主翼・尾翼・胴体・舵面間の空力干渉を考慮可能な計算環境を構築し,QNDD機が発生可能な制御モーメントを求めた.その結果,QNDD機は従来機と同等の制御モーメントが発生可能であることを明らかにした.この結果は,QNDD機の実現可能性を大きく高めるものである.
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