研究課題/領域番号 |
22J14813
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田島 慶太 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 含窒素多環芳香族炭化水素 / 電子受容性化合物 / 分子配列の制御 / n型有機半導体 |
研究実績の概要 |
π共役化合物を近接して積層させるためには、分子間の静電反発の低減が重要である。私は、π共役分子を電子不足にすることで、静電反発を抑制できると考えた。本年度の研究では、元来高い電子受容性を持つゼトレンというπ共役分子に注目した。これに対して、本研究指針の要である、イミン型窒素とイミド基の同時導入という手法を用いた。その結果、ジアザゼトレンビスイミドという非常に電子受容性の高い分子の創出に成功した。本分子の結晶構造は、期待通りブリックワーク型の充填構造が観察された。得られた結晶構造をもとに、分子間の電荷移動積分を計算したところ、電子輸送材料としての機能が見込まれた。そこで有機電界効果トランジスタ素子を作成したところ、大気安定なn型半導体材料として機能することを見いだした。しかし、作成した素子の電子移動度は低く留まった。この理由としては、素子上の薄膜中において分子が乱れており、電荷輸送の際のエネルギー損失が大きくなったことが考えられる。また結晶中における分子の積層距離は0.35 nmであり、分子間相互作用が中程度に留まったことも、低い移動度を示した要因の一つと考えられる。 また、本分子の高い電子受容性に注目し、還元反応を行った。その結果、大気安定なジアニオン種の単離にも成功した。還元前は弱い赤色蛍光を示す一方で、ジアニオンは強い赤色蛍光を示した。この性質は、生体内イメージング色素としての応用が期待できる結果であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、継続して進めていたジアザゼトレンビスイミドに関する研究を中心に行った。本分子は既存の含窒素電子不足化合物を凌駕する、高い電子受容性を持つことを明らかにした。しかしながら、本分子の合成には制約があり、合成時に嵩高い置換基を導入する必要があった。これは、近接積層体を実現する上では不利である。実際に、合成・単離した分子の結晶構造は0.35 nm程度の積層距離に留まった。このため、本年度は研究課題である超近接積層体の実現には至らなかった。 しかしながら本研究結果は、研究課題の達成に向けて掲げた、特異な電子状態を持つπ共役系にイミド基とイミン型窒素を導入する、という仮説を支持する結果であると考えている。本指針が、元来高い電子受容性を持つ分子にも適用できるならば、次の標的分子であるラジカル性分子や反芳香族分子に対しても、本研究の設計指針が適用できる可能性が見込める。 なお、当初の研究計画に従って、アミノブロモナフタレンモノイミドを出発原料に、三重項ジラジカル分子の創出を目指していた。しかしながら、各種条件検討を行ったものの、目的の化合物は得られなかった。この検討を行う中で、当初の狙いとは異なる新規分子の創出に成功した。当該分子もまた、イミン型窒素原子とイミド基の両方が導入された分子であった。現在、その分子について調査を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
新規化合物を電子材料へと応用する上で、固体中における分子構造が非常に重要である。これまで合成に成功した新規分子のうち、一部の分子については、結晶中において分子配列が大きく乱れていることが観察された。この乱れは、分子性固体を電子材料として応用する際に、電荷輸送の妨げになることが予想される。実際に、その分子を用いた有機半導体素子の性能は低く留まる結果を与えた。このような分子の乱れを防ぐ方策としては、2点考えられる。一つは、分子の対称性を向上させることである。これにより、結晶中の単位格子が小さくなり、より対称性の高い充填構造を与えやすくなる。もう一つの方法は、分子間相互作用を巧みに利用し、分子の配列に方向性を持たせることである。このことは、結晶中における分子の配座の固定化のみならず、分子運動の抑制をもたらす。これは、分子性固体を電子材料に応用する上で、電荷伝達の際のエネルギーロスの低減につながる。 以上の知見から、今後の研究では新規分子をデザインする際に、分子の対称性と分子間相互作用の発現を念頭に置いて研究を遂行する予定である。
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