最終年度では、フェナジンビスイミドの合成とそのn型半導体特性と光物性について網羅的に調査した。本化合物は、本研究計画で掲げたイミン型窒素原子と電子求引基のイミド基を同時に導入された化合物に相当する。本化合物は結晶中で積層構造の形成が確認された。しかしながらその最近接距離は0.35 nm程度にとどまった。一方、電気化学測定の結果から、本化合物は高い電子受容性を持つことを明らかにした。またその特性を活かして、有機電界効果トランジスタを作製したところ、高い電子移動度を示すn型半導体として機能することを見出した。さらに光物性を調査したところ、光励起によって効率的に項間交差を起こし、光励起三重項種を生成することを見出した。興味深いことに、トルエン中で光照射を行ったところ、光還元反応が進行することを見出した。これによって得られた還元体に対して酸化剤を作用させたところ、極めて安定なラジカルを与えることを見出した。このラジカルは酸化還元反応によって対応する安定カチオンまたはアニオンを与えることも見出した。これらの機能は、イミン型窒素原子とイミド基の同時導入という手法が、電子受容性の向上のみならず、様々な機能発現に寄与するものであると考察される。 研究期間全体を通して、研究題目である超近接積層体の実現には至らなかったものの、その研究の過程で、高性能なn型半導体材料の創出や、魅力的な光物性や刺激応答性を示す機能性色素の創出に成功した。本研究の成果は、将来実用的な機能性有機材料が開発されていくうえで、重要な位置づけとなりうるものであると考えられる。
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