研究課題/領域番号 |
22J15630
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
日置 裕介 名古屋大学, 生命農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 天然物化学 / 海洋天然物 / アメフラシ / ソゾ / LC-MS/MS / 分子ネットワーク / メタゲノム / 生合成遺伝子 |
研究実績の概要 |
多様な構造・生物活性を有する海洋天然物の多くは,共生もしくは食物連鎖の関係にある微生物が生産するとされるが,その真の生産者や生合成経路の多くは未解明である。本研究では,メタボロミクスの手法である分子ネットワーク解析とメタゲノミクスを活用し,海洋軟体動物アメフラシから発見された生物活性物質ネオアプラミノン類の起源の解明を目的としている。 共同研究者より送付してもらった,沿岸環境が異なる三重県の太平洋側と伊勢湾側のそれぞれ2つの海域にて採取したアメフラシと3種のソゾ類について,LC-MS/MS分析と分子ネットワーク解析を行った。その結果,ネオアプラミノン類は太平洋側の海域に生息・植生するアメフラシとソゾ類にのみ特異的に検出された。先行研究において,いくつかのソゾ類はアメフラシの消化腺から見つかっていることから,ネオアプラミノン類は食物連鎖を介してソゾ類からアメフラシに移行していることが示唆された。また,アメフラシとソゾ類におけるネオアプラミノン類の有無は,同種であっても採取した海域により異なっていたことに加えて,含ハロゲン化合物の生産・貯蔵に関わる細胞小器官を持たないとされるソゾ類においても含ハロゲン化合物のネオアプラミノン類が検出されたことから,その生産者はソゾ類ではなく,ソゾ類に付着・共生する微生物である可能性が強く支持された。次に,ソゾ類に付着する微生物ゲノムを選択的に抽出し,ネオアプラミノン類の生合成に関わると予想されるハロゲナーゼ遺伝子の検出をPCRにより試みた。プライマーには,微生物由来のハロゲナーゼ遺伝子を標的とする縮重プライマーを用いた。その結果,ネオアプラミノン類が検出された海域のソゾ類メタゲノムにおいてのみハロゲナーゼ遺伝子の増幅が見られたことから,今回検出されたハロゲナーゼ遺伝子はネオアプラミノン類生合成遺伝子の候補であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルスの影響により,当初予定していた三重県近海でのアメフラシの食性調査やソゾ類の採取等のフィールド調査を行うことができなかった。しかし,現地の共同研究者の協力を得ることで,三重県内の4つの異なる海域にて,アメフラシと,アメフラシが実際に食べているとされるソゾ類を入手することができた。入手したアメフラシとソゾ類抽出物についてLC-MS/MS分析と分子ネットワーク解析を行った結果,ネオアプラミノン類の有無の地域差を明らかにすることができた。この結果とソゾ類の含ハロゲン化合物生産に関する過去の知見から,ネオアプラミノン類は微生物が生産するという当初の仮説が支持された。これらの研究成果は国際誌1報にて報告した。また,ソゾ類から付着微生物メタゲノムを選択的に抽出する手法を構築し,微生物由来ハロゲナーゼ遺伝子を標的とする縮重プライマーを用いたPCRにより,ネオアプラミノン類生合成遺伝子の候補となる遺伝子の検出にも成功した。一方で,得られた付着微生物メタゲノムは純度や濃度等の点において,メタゲノムシーケンシングに必要なライブラリー調製には不十分であることが判明し,ネオアプラミノン類の生合成遺伝子全体の解明には至っていない。 以上より,付着微生物メタゲノムの調製法については課題が残るものの,当初の予定通りLC-MS/MS分析と分子ネットワーク解析によりネオアプラミノン類を含む海藻種の特定に成功したことから,概ね順調に進展している,と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は,メタボロミクスとメタゲノミクスを組み合わせた新たな手法により,ネオアプラミノン類の起源の解明を目的としている。これまでの研究により,メタボロミクスの手法を用いてネオアプラミノン類が含まれる海藻種を特定し,かつその付着微生物メタゲノムにおいてPCRによるネオアプラミノン類生合成遺伝子の候補(ハロゲナーゼ遺伝子)の検出にも成功した。今後は,メタゲノム解析による生合成遺伝子の全容の解明ならびに生産菌の特定を目指す。 メタゲノムライブラリーの調製には,1. 長鎖DNA,2. 高純度,3. 高濃度の3点を満たすメタゲノムを調製する必要がある。そこで,高品質なメタゲノムを調製するために以下2つの項目を遂行する。 (1) フィールド調査における新鮮な試料採取 当初の予定通り,引き続きアメフラシが生息する海域にてソゾ類の採取を行う。この際 ,試料採取直後に液体窒素で瞬間凍結し遮光下で保存・輸送することで,内在性のDNA分解酵素や紫外線等によるDNAの損傷を最小限に抑える。 (2) 高品質メタゲノム抽出法の構築とメタゲノム解析 これまでのゲノム抽出操作では,海藻からバイオフィルムを剥離・溶解した後にDNA抽出を行っており,すべての付着微生物遺伝子を区別することなく抽出していた。この操作では,水溶性の不純物を除くことができず,DNAの純度と濃度が共に低下してしまうという問題があった。そこで今後は,海藻からバイオフィルムを剥離した後に,遠心分離操作あるいは密度勾配遠心法により付着微生物の分画を行い,各画分からDNAを抽出することで高品質なメタゲノムの調製を試みる。その後,メタゲノムシーケンシングならびにアセンブリを行い,antiSMASH等のゲノムマイニングツールを用いてネオアプラミノン類の生合成遺伝子クラスターを同定する。
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