多様な構造・生物活性を有する海洋天然物の多くは,共生もしくは食物連鎖の関係にある微生物が生産するとされるが,その真の生産者や生合成経路の多くは未解明である。本研究では,分子ネットワーク解析とメタゲノム解析を活用し,海洋軟体動物アメフラシから発見された生物活性物質ネオアプラミノン類の起源の解明を目指した。 沿岸環境が異なる三重県の太平洋側と伊勢湾側のそれぞれ2つの海域にて採取したアメフラシと3種のソゾ類について,LC-MS/MS分析と分子ネットワーク解析を行った結果,ネオアプラミノン類は太平洋側の海域に生息・植生するアメフラシとソゾ類にのみ検出された。アメフラシとソゾ類におけるネオアプラミノン類の有無は,同種であっても採取した海域により異なっていたことに加え,含ハロゲン化合物の生産・貯蔵に関わる細胞小器官を持たないとされるソゾ類においても含ハロゲン化合物であるネオアプラミノン類が検出されたことから,その生産者はソゾ類ではなく,ソゾ類に付着あるいは共生する微生物である可能性が示唆された。 続いて,ソゾ類に付着する微生物叢メタゲノムを選択的に抽出し,ネオアプラミノン類の生合成に関わると予想されるハロゲナーゼ遺伝子の検出をPCRにより試みた結果,LC-MS/MSによりネオアプラミノン類が検出された海域のソゾ類微生物叢においてハロゲナーゼ遺伝子の増幅が見られた。ソゾ類微生物叢についてメタゲノム解析を行ったが,ネオアプラミノン類の生合成遺伝子クラスターの検出には至らなかった。この理由として,ネオアプラミノン類の生産菌の量が少なかったことが考えられる。また,採集した年度によってソゾ類微生物叢のアセンブルの結果が大きく異なっていたことから,付着微生物叢が変化したと考えられる。今後,付着微生物分画・濃縮法を最適化し,引き続きネオアプラミノン類の真の生産者の特定を目指す予定である。
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