研究課題/領域番号 |
22J15656
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
川崎 晟也 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | GaN / IMPATTダイオード / マイクロ波発振 |
研究実績の概要 |
マイクロ波帯で動作するGaN IMPATTダイオードの高性能化に向けて今期はデバイス作製プロセスの改善および、デバイス構造の改善に取り組んだ。 デバイス作製プロセスについては、主にGaN結晶成長条件、p型GaNへの接触抵抗の低減を試みた。MOVPE法による、GaNの結晶成長条件を検討し、10 nm/min程度の低成長レートで薄膜GaNの精密な膜厚制御を可能とし、高周波発振に向けた薄膜GaNデバイス層の成長へは一定の目途がついた。また、p型GaNに対する抵抗性接触電極材料として従来のNi系電極から新規にPd系電極を検討し、その接触比抵抗を従来の半分程度にまで低減し、10-4 Ωcm2台と他の機関と比較しても遜色ない優れた接触比抵抗が実現できた。 デバイス構造については、れまで、単純なp+-n-n+構造としていたところを、接合界面に高濃度n型層を挟んだp+-n+-n-n+構造を検討した。その結果、従来よりも低電圧での駆動に成功し、発振動作に必要な入力電力を約半減した。また、従来よりも高出力での動作に成功した。 これらの検討結果を用いて、マイクロ波帯GaN IMPATTダイオードを作製した結果、周波数は最高で21 GHz (従来比約2倍), 出力は最大で8 W (従来比約10倍)が得られ、世界で初めてGaN IMPATTダイオードのワット級動作を実現した。 また、高周波化に合わせて、空洞共振器を新たに設計し、それに付随する導波管、同軸変換アダプタを整備し、34 GHz帯までの発振測定を可能とした。加えて、先行してスペクトラムアナライザに取り付けるミキサを用意し、Wバンド(~100 GHz)までの測定系を整備した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
0-20 GHz帯で動作するデバイスについては、デバイスプロセスおよびエピ層構造の改善により研究開始当初と比較して約10倍の高出力化に成功した。そのピークパワーは最大8Wであり、このような1Wを超える高出力発振の実現はGaN IMPATTダイオードとしては初めて、唯一のものである。また、デバイスパラメータが発振周波数に与える影響を調べたところ、接合容量や印加電流密度によって発振周波数を変調することができ、理論的な解析とも良い一致を示した。これにより、高周波化のためのデバイス設計指針に一定の目途がたった。 また、エピ構造を単純なp-n接合から接合界面に高濃度のn層を挟む、いわゆるHi-Lo構造を検討したところ、発振に必要な入力電流密度が約半減し、低入力域における発振効率が大幅に改善した。加えて、従来よりも高い出力でのパルス発振に成功し、高効率・高出力動作を実現し、さらなる高出力化へ向けて、結晶成長・デバイス作製・理論の各側面から知見を深めることができた。 高周波化についても順次進めており、これまで用いていた空洞共振器を基に、周波数に基づいたスケーリングによって新たな空洞共振器設計し、それに付随する導波管、同軸変換アダプタを整備し、34 GHz帯までの発振測定を可能とした。加えて、先行してスペクトラムアナライザに取り付けるミキサを用意し、Wバンド(~100 GHz)までの測定系を整備しており、ミリ波帯デバイス作製・測定に向けた準備は順調に進んだ。
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今後の研究の推進方策 |
今後はマイクロ波帯(10-20 GHz)GaNIMPATTダイオードのさらなる高出力化、および、高周波化によるミリ波帯での発振の実現を目指す。 高出力化については、これまでに検討したHi-Lo構造の最適化を図る。IMPATTダイオードの動作には電子が走行する層の電界分布が大きく関係する。そこで、電子走行層のキャリア濃度を変化させた場合に、発振出力・発振効率がどのように変化するかを調べ、発振周波数ごとに最適な電子走行層のキャリア濃度を実験的に見積もる。加えて、高濃度p-n接合により生ずるバンド間トンネリングが発振出力に与える影響についても実験的に見積もり、GaN Hi-Lo IMPATTダイオードの各層の設計指針を実験的に与えることを目標に進める。 高周波化については、これまでに設計した30GHz帯での空洞共振器を用いた発振を確認したのち、それらを基にして、Wバンド用(75-100 GHz)の空洞共振器の設計・製作を進める。また、平行してWバンド用のIMPATTダイオードの作製に取り組む。ここで、寄生特列抵抗を低減するために、p層を下層とした構造をとる予定であるが、この際にはアクセプタであるMgの上方拡散が課題となる。そこで、Mgの濃度が十分低減されるための緩衝層をどの程度の膜厚とすればよいか、そのMg濃度分布がデバイス特性にどのような影響を与えるのかを実験的に調査を行い、WバンドでのGaN IMPATTダイオードの発振を目指す。
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