研究課題/領域番号 |
22J15698
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
片桐 佳 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | ラジカルカチオン / 環化付加反応 / キラル鉄(III)触媒 / 青色LED / エナンチオ選択的反応 / キラル対アニオン |
研究実績の概要 |
中性分子の一電子酸化によって生成するラジカルカチオンは、酸・塩基相互作用による二電子関与の活性化では発現できない特異的な反応性を示すことから、有機反応、特に環化付加反応への応用が近年盛んに行われている。こうしたラジカルカチオンの生成方法として、ルテニウムやイリジウムなどの貴金属から成る光レドックス触媒を用いる手法が多く報告されている。一方、当研究室では元素戦略の観点から資源豊富な鉄塩を触媒的一電子酸化剤に用いるラジカルカチオン環化付加反応の開発を行なっている。現在も多くの研究者によって新たな手法の開発が進んでいるなか、一方の鏡像異性体のみを選択的に生成するエナンチオ選択的反応の開発例はない。反応中間体であるラジカルカチオンは不安定であり、立体制御が難しいためである。私はエナンチオ選択的反応を開発するために、ラジカルカチオンの対アニオンに着目した。一電子酸化剤としてキラル鉄(III)触媒を用いることで、ラジカルカチオンの近傍にキラル対アニオンを導入でき、生成物をエナンチオ選択的に与えることができる。以上の仮説のもと、申請者はキラル鉄(III)触媒を用いるエナンチオ選択的ラジカルカチオン環化付加反応を開発することとした。尚、本反応の反応条件を検討していた際、キラル鉄(III)触媒の代わりに空気酸素とキラルブレンステッド酸を用いても反応が進行することを偶然発見したことから、当初は空気中の酸素とキラルブレンステッド酸を用いるエナンチオ選択的ラジカルカチオン[2+2]環化付加反応を開発する予定であった。しかし、空気酸素の酸化力の調節が難しく副反応の抑制が困難だったため、まずはキラル鉄(III)触媒を用いる反応の開発に着手した。その結果、青色LED照射化、適切なキラル鉄(III)触媒を用いることにより目的生成物を高収率、高エナンチオ選択的に得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究課題とは異なるものの、同様のコンセプトでエナンチオ選択的ラジカルカチオン反応を開発することができたため、研究課題は概ね順調に進展していると考えている。種々の条件検討の結果、キラルビアリール骨格を有するトリフリルホスホロイミドがラジカルカチオン中間体の立体制御に有効であることを見出し、種々のカルコンとスチレンから対応する[2+2]環化付加体を高収率・高エナンチオ選択的に得ることに成功した。また、興味深いことに反応系中に青色LEDを照射することで反応活性が向上することを見出した。本反応システムは、スチレンの代わりにイソプレンを用いることでラジカルカチオン[4+2]環化付加反応にも適用できた。詳細な反応機構解析の結果、青色LEDの照射がキラル鉄(III)触媒の励起に関与していることや、ラジカルカチオン中間体の対アニオンの構造などが明らかとなった。本研究結果は学術論文としてまとめ、現在は科学分野で高いインパクトを有する学術誌に投稿している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、光照射の効果についてより堅固な証拠を得るため、名古屋大学熊谷准教授ご指導のもとESRによる分析を行なう予定である。また、立体選択的に反応が進行するメカニズムを解明するため、北海道大学長谷川教授のご指導を仰ぎ、量子化学計算ソフトウェアであるGaussianを用いた密度汎関数法による計算にも取り組む。加えて、今後は4員環及び6員環骨格を有する生物活性物質の立体選択的合成を行う予定である。エナンチオ選択的ラジカルカチオン[2+2]及び[4+2]環化付加反応を鍵反応に用いることで、従来法では達成できなかった生物活性天然物の立体選択的合成を目指す。その後、より環境調和型な反応を開発するために、空気酸素とキラルブレンステッド酸を用いるエナンチオ選択的ラジカルカチオン反応について再検討する予定である。
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