中性分子の一電子酸化によって生成するラジカルカチオンは、酸・塩基相互作用による二電子関与の活性化では発現できない特異的な反応性を示すことから、有機反応への応用が盛んに研究されている。過去10年間でラジカルカチオン反応の開発が急速に進んでいる一方、エナンチオ選択的反応の開発例は非常に少ない。不安定な化学種であるラジカルカチオンを立体的に制御するのが難しいためである。当研究室では、元素戦略の観点から資源豊富な鉄塩を触媒的一電子酸化剤に用いるラジカルカチオン環化付加反応を開発済みである。また、FeCl3を一電子酸化剤として用いることで、ラジカルカチオン中間体の単離にも成功している。X線結晶構造解析の結果、FeCl3由来の対アニオンがラジカルカチオンの近傍に存在することが分かった。本結果は、FeCl3の代わりにキラル鉄(III)触媒を用いることで、ラジカルカチオンの近傍にキラル対アニオンを導入できることを示唆している。今回、我々はキラル鉄(III)触媒を用いるエナンチオ選択的ラジカルカチオン[2+2]環化付加反応を開発した。触媒量のFeCl3とキラルN-トリフリルホスホロアミド銀から系中で調製可能なキラル鉄(III)光レドックス触媒を一電子酸化剤として用いることで、アネトール類とスチレン類のエナンチオ選択的ラジカルカチオン[2+2]環化付加反応がマイナス40度かつ24時間以内に完結することを見出した。また、スチレンの代わりにジエンを用いることで、世界初の高エナンチオ選択的ラジカルカチオン[4+2]環化付加反応の開発に成功し、古典的な[4+2]環化付加反応では得ることの難しい位置異性体の合成を達成した。さらに、ICP-AES、重量測定、DFT 計算によりキラル鉄(Ⅲ)光レドックス触媒の生成確認および構造推定を行った。
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