本研究は平たくて硬い表面上で柔らかさを提示することを目標とする.従来の研究では押し込む動作に対して接触面積や圧力分布を制御することで柔らかさを提示していた.そのため,柔らかさを提示するための触感提示装置の多くはディスプレイが変形するように設計された.しかし,このような設計上の制約のため,タッチパネルのような,現在普及されているユーザインタフェースに適用することが難しい.本研究では押し込む動作ではなく,擦る動作に注目して柔らかさを表現する. 最終年度までの研究成果により,物体の柔らかさがその物体と指間の摩擦に及ぼす影響と10―30 Hzの摩擦振動を提示することで柔らかさが表現できることがわかった.今年度ではこの現象をより実用化に近づけるため,柔らかさ提示に最も最適な摩擦振動を参加者実験を用いて調べた. 最も最適な摩擦振動の条件を調べるために,摩擦振動に最も影響を与えると考えられる摩擦刺激の空間周波数(波長)とユーザの触察速度の二つの条件をパラメータとし,二つの条件を変えたときに参加者が感じる柔らかさの程度がどのように変わるかを調べた.実験は空間表面を用いた中心複合計画に従って行われた. 実験の結果,最も柔らかさに有効だと考えられる条件は,空間周波数が10.55 mm,触察速度が 198.6 mm/sで,この条件で発生する振動数は18.5 Hzだった.また,触察速度ごとに最も柔らかく感じる空間周波数が異なることがわかった.これは最も柔らかい感覚を感じさせるためには固定された摩擦振動数ではなく,ユーザの触察運動に合わせた触感刺激が必要になる可能性を示唆する.一方,各触察速度で最も柔らかいと感じられるときの摩擦振動は10―20 Hzの範囲内にあり,一定の範囲内の摩擦振動を提示することで十分な柔らかさが提示できる可能性も考えられる.この点については,更なる研究と検証が必要とされる.
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