研究課題/領域番号 |
22KJ1593
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
都澤 諒 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | 量子ドット / 近赤外発光 / バンド端発光 / 欠陥発光 / ナノ温度計測 / 細胞温度計測 / バイオイメージング |
研究実績の概要 |
今年度は近赤外発光性のAgAuSe QDをコアに選択し、コアシェル化および親水化によって生体内センシングに適したQDの作製を試みた。AgAuSe量子ドットはAg/Au比を変化させることで発光波長を調整できるうえ、InドープによってQYが34%から54%まで向上する。しかし、そのまま表面配位子交換によって親水化しようとすると反応中に分解してしまったため、シェル被覆によるQDの安定性向上を図った。まず、類似化合物であるAg2Seナノ粒子のコアシェル化の報告を参考に、ZnSe、ZnSによるコアシェル化を試した。Zn、Seの前駆体とAgAuSe QDを溶液中で100 ℃以上で加熱すると、コアシェル状ではなくワイヤー状に成長した。これはAgAuSeが100℃以上で超イオン伝導体相をとり、特定方向の成長が促進されるためであった。100℃未満で加熱するとコアシェル状の球状粒子が得られたが、発光強度は著しく低下した。ZnSについても同様にシェル合成を行ったが、発光強度は低下した。これらのことから、AgAuSeとZnSe、ZnSとの格子不整合やZnが関連するトラップ準位が発光強度の低下に寄与した可能性がある。次に、類似の系でバンドギャップがAgAuSeより大きいAgAuS、Ag2S、およびAu2Sをシェルとして選択した。この中でもAu2Sシェルを被覆したものは強い発光を示し、QYは58%まで向上した。以上より、AgAuSe@Au2Sコアシェルナノ粒子は以降の研究に適した材料である可能性がある。 また一方で、別の系で近赤外光を発するAg-In-Ga-Se(AIGSe)QDにおいては、Zn-Ga-Sシェルで被覆することで発光特性と水への安定性が向上し、水溶液中で30%のPL QYを示すことを見出した。AgAuSe系と平行してこちらの量子ドットでも検討していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では①近赤外領域でバンド端、欠陥発光ピークの二つを示すQDの開発、②QDの発光特性を向上しつつ水への安定性を確保する新規コア/シェル構造QDの合成、③合成したQDの温度計測能の評価及び細胞内における温度計測の実施、の三つを軸とし、概ね一年で一項目の達成を目標としていた。前年度は項目②に関して可視光領域で発光するAg-In-Ga-S (AIGS) 量子ドット(QD)をコアとし様々なシェル材料による被覆と親水化を行ったが、望んだ発光特性を示すQDの合成が難しかった。そのうえ、本研究では近赤外発光性のQDの開発を目指しているが、AIGS QDは可視光で発光するため、この系のまま研究を進めるのは得策でないと判断し、類似系のAIGSe QDおよび異なる系であるAgAuSe QDの開拓に切り替え、項目①を進めることとした。AIGSe QDに関しては項目②は達成されており、項目①はバンド端発光のみ達成されている状況である。さらに欠陥発光を出現させ、項目③を達成する必要があるため、総合的に進捗はやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
AgAuSe QDについてはAu2Sシェルの他、Ga2O3など酸化物半導体シェルの形成も試み、より安定且つ発光特性の向上・変調に寄与するシェル材料の検討を行う。また、AgAuSe QDは単一の欠陥発光ピークを持つため、コア粒子への異種元素ドーピングなどによる新たな発光ピーク発現および配位子交換による親水化をまずは目指す。 AIGSe QDについてはまず異種元素ドーピング(Cu、Mn)、あるいはコア金属比(Ag/(In+Ga))を調整し、バンド端発光に加えて欠陥発光を出現させる。その後、Zn-Ga-Sシェル被覆、親水化を経て発光特性が望ましいものであれば温度変化PL測定を行い、発光強度比による温度計測が可能と判断した場合、細胞温度測定まで実施する。 二種のQDで開発を進めるが、いずれかで項目①、②が達成された時点でそちらにフォーカスして項目③を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
温度計測に関しては共同研究先へ赴く必要があるが、この1年で共同研究者が名古屋から関東へ移転し、測定の際に移動費の発生が見込まれた。また、3年目(次年度)に国際学会へ参加予定であった。これらの事情を踏まえ、3年目に資金がこれまで以上に必要になると判断し、次年度使用が生じた。具体的な使途としては、先述した研究室と共同研究先間の移動や学会参加費・旅費に加え、研究室に不足している試薬や器具の購入などが見込まれる。
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