研究課題/領域番号 |
22J20884
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
雨宮 優奈 名古屋大学, 生命農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | mTORC1 / Calcium / Calmodulin / TSC2 |
研究実績の概要 |
報告者らは、これまでに動物細胞へのアミノ酸投与が細胞内Ca2+濃度の上昇を引き起こし、mTORC1活性を正に制御することを見出してきている。さらに、Ca2+シグナルをmTORC1経路へと伝達する因子として、Ca2+結合タンパク質であるcalmodulin(CaM)を見出し、mTORC1経路の強い負の制御因子であるTSC2(tuberous sclerosis complex 2)とCaMがCa2+依存的に結合すること、またその結合領域を報告してきた。そこで、CaMがTSC2を介してmTORC1の活性を制御するその詳しい分子機構の解明を通じ、mTORC1の異常活性を伴う種々の病態発症の分子基盤の解明や、治療法の開発に貢献することを目指している。報告者らはこれまでにTSC2のCaM結合領域が、mTORC1活性化因子Rhebとの結合に重要であると報告のある領域と重なることを同定している。そのため、令和4年度はCaMがTSC2-Rheb間の結合へ与える影響を明確に評価する方法を探索し、検証した。TSC2-Rheb間の結合に関して、通常広く用いられている免疫沈降法等では、結合を捉えることができなかったため、深海エビ由来発光酵素ルシフェラーゼの小断片(HiBiT)と大断片(LgBiT)の再会合を利用することで、簡便かつ定量的に結合を評価する方法を用いたところTSC2-Rheb間の結合を捉えることに成功した。また、大腸菌を用いて野生型CaM及びCa2+結合能欠失CaM変異体を添加し、TSC2-Rheb間の結合に変化があるか検証したところ、TSC2-Rheb間の結合は野生型CaMの添加により有意に低下し、Ca2+結合能欠失CaM変異体の添加では変化しなかった。このことから、CaMはTSC2-Rheb間の結合を変化させることでmTORC1活性を制御していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度はTSC2-CaMがmTORC1活性を制御する具体的な分子機構について明らかにするため、Rheb-TSC2間の結合に着目し、CaM添加が与える影響を検証した。そこでまずRheb-TSC2間の結合を正確かつ簡便に評価する方法として、ルシフェラーゼ断片の再会合による発光を利用した実験系が有効であることを明らかにした。また、野生型CaMとCa2+結合能欠失CaM変異体を用いた実験により、Ca2+/CaMがRheb-TSC2間の結合を有意に減少させることも明らかにした。以上のように適切な結合評価方法を見出し、CaMがRheb-TSC2間の結合を低下せるというmTORC1活性制御の具体的な分子メカニズムとして十分に考え得る機構を発見することに成功したことから、研究はおおむね順調に進展していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
報告者はこれまでに、CaMがTSC2と結合していること、また令和4年度においてはCaM添加がTSC2-Rheb間の結合を低下させることを明らかにしてきた。そこで、今後はCaMのTSC2への結合がTSC2とRhebとの結合を低下させるかを明らかにし、TSC2-Rheb-CaM三者がmTORC1活性を制御するさらに詳細な分子メカニズムを明らかにする。また、報告者らはCaMとmTORC2の構成要素であるRictorとの結合についても明らかにしているため、CaM-RictorによるmTORC2活性制御機構についても解明することで、次年度はさらにCa2+/CaMとmTOR経路とのより包括的な関係性について明らかにすることをめざす。
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