研究課題
我々が開発中の光注入型テラヘルツパラメトリック発生器(is-TPG)は、テーブルトップサイズにもかかわらず、巨大な自由電子レーザーを超える100 kWの高強度テラヘルツ波パルスを生成する。この装置は、単一周波数で発振しつつ、0.4から5.0 THzの広範囲にわたる周波数可変性を持つ。現在、is-TPGでは、強い励起光によって引き起こされるカスケードプロセスにより、高次ストークス光へのエネルギー流出が変換効率の向上における課題となっている。本研究は、高次ストークス光によって結晶が励起されることで生じるカスケードテラヘルツ波を結晶外部に取り出すことにより、is-TPGの励起光からテラヘルツ波への変換効率を向上させ、高電界テラヘルツ波の生成を目指すものである。昨年度は、高強度の注入光の導入と励起光が結晶端面で全反射する手法を用いて、カスケードプロセスの発生位置を結晶の浅部にシフトすることで、初めてis-TPGからカスケードテラヘルツ波を観測した。今年度は、結晶内部でテラヘルツ波を増幅するために、励起光と注入光を同軸で非線形光学結晶に入射し、チェレンコフ位相整合法を利用するアプローチを採用した。この方法により、結晶前方で微弱なテラヘルツ波が種光として生成される。この微弱なテラヘルツ波は、テラヘルツパラメトリック発生において重要な角度位相整合条件とほぼ同じ角度で発生するため、結晶を伝播する過程でテラヘルツパラメトリック増幅が行われることが確認された。このプロセスにより、微弱なテラヘルツ波は約160倍に増幅されることが実証され、テラヘルツ波の高強度化に成功した。この新しい方式は、励起光と注入光を同軸に非線形光学結晶に入射するだけで、波長が可変であるにもかかわらず高強度なテラヘルツ波を生成できるため、従来のテラヘルツパラメトリック発生器に比べて非常に簡便なセットアップとなっている。
2: おおむね順調に進展している
昨年度、高強度の注入光を使用してカスケードプロセスの発生位置を結晶の浅部にシフトさせる技術を導入した。この方法により、is-TPGからカスケードテラヘルツ波が初めて観測され、結晶内での光の反射と制御を利用することの効果を実証した。今年度は、テラヘルツ波の増幅に焦点を当てて研究を進めた。特に、非線形光学結晶に励起光と注入光を同軸で入射し、チェレンコフ位相整合法を利用する新しいアプローチを開発した。この方法では、結晶前方で微弱なテラヘルツ波が種光として発生し、この波は結晶を伝播する過程で自然と増幅される。具体的には、この微弱なテラヘルツ波が約160倍に増幅されることが実証され、これはテラヘルツ波の効率的な増幅を可能にした。さらに、新しい発生器の設計において、操作の簡便さも向上した。非線形光学結晶に対する光の入射が同軸であるため、従来のテラヘルツパラメトリック発生器に比べて、装置の設置や調整が容易になっている。この利点は、実用化を目指す上で非常に重要であり、幅広い応用が期待される。
励起光と注入光を非線形光学結晶に同軸で入射する方式では、高強度の注入光が必要である。将来的に簡便なテラヘルツ波光源を実現させるために、連続光程度の強度でテラヘルツ波を生成するには、結晶内部の位相整合条件をさらに詳細に検討し、研究を進める必要がある。さらに、テラヘルツ波の発生効率を向上させるために、光学的配置を工夫してパラメトリック利得の集中化を試み、カスケードプロセスをより効果的に制御する研究を進める予定である。また、実験装置のスケールアップを行いつつ、他の研究機関との連携を模索し、この技術の実用化に向けた基盤を固めていく計画である。
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