研究課題
当該年度は天の川銀河の太陽円外に着目し、100個以上の巨大分子雲の同定を中心として研究を推進した。当初予定では多数の系外銀河を解析する予定であったが、系外銀河データでは10^5 Moよりも低質量なサンプルが同定できず、GMC進化初期の追究が難しい。そこで、銀河系に着目することで、質量的な検出限界7x10^3 を達成した。Fukui et al. 1999とKawamura et al. 2009でLMCに適用された巨大分子雲のType分類(GMCをType I: 大質量星形成をしていない、Type II: 中程度の大質量星形成の段階、Type III: 大規模な大質量星形成)を適用した。主な結果を以下に示す。1)銀河系の太陽円外においては、各Typeの個数比は1:1:0であった。これはLMC、M33、M74における個数比1:2:1とは異なっている。Type I割合が大きい原因は、より低質量で進化段階の若いGMCを十分にサンプルできたことによる。また、LMCとの比較からGMC周辺の中性水素原子ガスの不足がType IIIが存在しない原因と考えられる。2)Type IIのGMCは柱密度、質量、半径、速度分散についてはType Iより有意に大きいため、進化に従って増加していることが示唆された。一方で平均密度とビリアルパラメータには有意な変化がみられなかった。これは、GMCは密度の変化なしに、サイズの増加に伴って質量が成長していることを示唆する。系外銀河ではType IIからType IIIへの進化が重力的な緩和過程として特徴付けられるが、その前段階として「サイズ増加による質量成長」があるものと考えられる。以上に加え、進化初期のGMC GL 490について野辺山45m望遠鏡を用いたCO(1--0)観測を行い、進化初期のGMCにおける分子雲衝突による質量成長の可能性を指摘した。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題は巨大分子雲の進化の標準的な描像を得ることを目的としている。当初の予定ではALMA望遠鏡によって取得された約70個の系外銀河にType分類を適用する予定であったが、系外銀河のALMAデータでは質量的な検出限界が10^5 Moであり、GMCの進化初期を追究するには不十分であるとわかった。そこで当初予定を変更して銀河系内に着目したことで、10^5 Mo以下のGMCが10^5 Mo程度に進化するまでの過程を議論することができた。この成果は銀河系内に着目したからこそ得られた結果であり、GMC進化解明に向けた重要なステップであると言える。このため、計画変更を踏まえても研究計画の進行は概ね順調であると判断した。
今までの成果の論文化を急ぐと共に、GMCを取り巻く中性水素原子ガスの定量を進める。全天がカバーされた中性水素原子のデータHI4PIが既にリリースされており、主として本データを活用する。特に重要な項目として、GMCの質量変化率の導出がある。Fukui et al. 2009によってLMCでGMCに付随する中性水素原子ガスの量を定量し、質量変化率を導く研究が行われており、この手法を参照しつつ、必要に応じて修正する予定である。
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Monthly Notices of the ROYAL ASTRONOMICAL SOCIETY
巻: 515 ページ: 1012-1025
10.1093/mnras/stac1087