研究課題
今年度は、分子雲衝突を素過程とし包括的に巨大分子雲の進化と星形成を追究するため、1. 近傍銀河M74のALMA望遠鏡データを用いた巨大分子雲進化の研究、2. 銀河系内の若い巨大分子雲GL 490における分子雲形成の実証、3. 大マゼラン雲内の巨大分子雲N159における大質量星形成機構の調査、4. 分子雲衝突の普遍性検証に向けた赤外線バブルの野辺山45m望遠鏡を用いたサーベイ観測、5. 形成初期の分子雲の物理量導出に向けた高銀緯分子雲の観測という5つの課題に取り組んだ。1はGMCを星形成の活発さで分類する、「タイプ分類」を初めて局所銀河群の外のサンプルに適用した研究である。今後の数十個の銀河への適用に向けて分子雲データとHα輝線データのみでタイプ分類を行う手法を確立した。この手法を用いてGMCの寿命の導出に加え、進化に伴う光学質量、ビリアル質量の変化についても考察した。2については、進化初期のGMCであるGL 490領域において、進化初期の巨大分子雲に中性水素ガス雲が衝突し、巨大分子雲内での大質量星形成を誘発すると同時に、分子雲形成を誘発した可能性を指摘した。中性水素ガス雲は、衝突から0.7 Myr程度経った現在では1/10程度の分子雲を含んでいると観測的に導出され、これは形成初期の分子雲の数値計算(Inoue & Inutsuka 2012)と整合的であった。天の川銀河の天体で初めてガス雲衝突による分子雲形成を実証した例である。3については、銀河間相互作用によってガス雲衝突が誘発されているマゼラン雲の巨大分子雲N159に着目し、ALMAによる分子雲データの速度構造を詳細に解析した。その結果、速度分布がInoue et al. (2018)によるガス雲衝突の数値計算で予測された結果と一致していた。4と5については順調に観測が終了し、2024年度に解析を進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
マゼラン雲で提案されたタイプ分類を系外銀河M74に適用できたことに加え、GL 490におけるGMC成長の現場を詳細に観測することができた。さらに、2024年度に取り組むための追加のデータ取得もできたため、順調であると判断した。
M74で確立された、「近傍銀河へのタイプ分類の適用」をさらに約20個の銀河に適用する。また、これと比較すべき銀河系内の太陽円外のGMCについても、中性水素原子ガスとの比較する。2022年度の一部計画変更のため、すでにGMCの同定などの大部分の解析が終了しており、その解析結果をまとめる。また、2023年度に取得した若いGMCであるS140のデータと高銀緯分子雲のデータについても解析を進める。
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すべて 雑誌論文 (2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
The Astrophysical Journal
巻: 953 ページ: 164~164
10.3847/1538-4357/ace4bd
Publications of the Astronomical Society of Japan
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10.1093/pasj/psad007
https://www.nro.nao.ac.jp/news/2023/0526-kohno.html