研究実績の概要 |
脳領域間の神経細胞活動の時間的制御を行っているオリゴデンドロサイト(OL)およびその前駆細胞(OPC)は髄鞘化を担うことが知られている。アルツハイマー型認知症(AD)では、成熟期におけるこの髄鞘化の制御機構が障害されることで、神経回路活動の時間的制御不全が起こり、高次脳内機能障害が出現すると想起される。そこで本研究では、AD病態を再現するモデルマウスとして時期依存的に神経炎症、記憶障害を呈するAppNL-G-F/NL-G-F mice(ADマウス)を用い、アルツハイマー型認知症における高次脳機能障害の背景にあるOLの機能制御機構を明らかにすることを目標とした。本年度は主に以下2項目に取り組んだ。 ADマウスと野生型マウスの成熟期(生後2,4,6ヶ月)において、(1)免疫組織学的手法、電子顕微鏡により、OPC・OLの形態、機能、遺伝子発現に与える影響を経時的に観察し、時期特異的な髄鞘の障害性を評価・比較した。その結果、6か月齢のADマウスで髄鞘の損傷個数が顕著に上昇することが示された。さらに、OLが形成する髄鞘がAD病期のどの段階で障害されているのかを検討するために、髄鞘関連タンパク質(myelin basic protein; MBP, myelin proteolipid protein; PLP等)の発現レベルを(2)ウエスタンブロット法により評価したところ、6か月齢ADマウスにおいてMBP,PLPの発現が著しく上昇していることが示された。これら(1)、(2)の結果より、ADマウスの生後6カ月齢において、髄鞘の形態及び機能、遺伝子発現的な観点から変化を明らかにした。
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