研究課題/領域番号 |
22J30003
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大久保 祐里 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | リン酸化プロテオミクス / プロテインホスファターゼ / 硝酸トランスポーター |
研究実績の概要 |
リン酸化によるタンパク質の翻訳後修飾は、細胞分裂や代謝、膜輸送などあらゆるプロセスに関わっている主要なシグナル伝達経路である。本研究では、タンパク質リン酸化を介した植物の環境適応機構の解明を目指しており、本研究では①硝酸イオントランスポーターNRT2.1を不活性化するリン酸化酵素の探索と、②機能未知タンパク質脱リン酸化酵素群の機能解析の2テーマを並行して実施している。 テーマ① NRT2.1の501番目のSerをリン酸化するタンパク質リン酸化酵素は根の細胞に局在すると考えられるが,細胞膜や細胞質などどの画分に存在するかは分かっていない.そこで今年度は501番目のSer周辺配列をミミックした合成ペプチドと質量分析計を用いたリン酸化酵素活性評価系を確立し,根の膜画分と合成ペプチドをATP含有バッファーと反応させると合成ペプチドがリン酸化されることを見出した.根の全タンパク抽出液では活性を検出できなかったのに対し,膜画分を精製した場合のみ活性を検出したことから,NRT2.1の501番目のSerを標的とするリン酸化酵素は根の膜画分に存在すると考えられる. テーマ② シロイヌナズナで最大のタンパク質脱リン酸化酵素ファミリーであるPP2Cには80遺伝子が存在しており,環境応答などに関わることが明らかにされたものもある一方で,全体の70%はまだ基質が明らかになっていない.解析対象とした機能未知PP2Cの16遺伝子のうち単独欠損株で地上部や根の矮化を確認した遺伝子A,B,Cについて,今年度は野生株と欠損株を用いた15N代謝標識による定量リン酸化プロテオミクスを実施した.各プロテオミクスにおいて欠損株でリン酸化レベルが増加したタンパク質を検出しており,遺伝子A欠損株では128個,遺伝子B欠損株では72個,遺伝子C欠損株では51個のタンパク質をそれぞれの基質候補として同定した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
植物の主要な硝酸トランスポーターであるNRT2.1はリン酸化によって活性制御を受けることが明らかになっているが,リン酸化反応を担う酵素はまだ同定されていない.合成ペプチドを用いたリン酸化酵素活性評価系により膜画分に目的の酵素が存在すると推定しており,今後は膜画分からのキナーゼ精製を行う予定である. また,機能未知のタンパク質脱リン酸化酵素の解析では,変異株を用いた定量リン酸化プロテオミクスによって基質候補を複数見出した.今回対象とした脱リン酸化酵素はこれまで基質が報告されておらず,本研究で見出した候補の中に直接の基質が含まれている可能性が高い.
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今後の研究の推進方策 |
テーマ① 根の膜画分にNRT2.1をリン酸化する酵素が存在すると考えられるため,今後は合成ペプチドをプローブとしたアフィニティー精製によって膜画分から目的酵素の同定を試みる. テーマ② 脱リン酸化酵素の一過的過剰発現株を用いて定量リン酸化プロテオミクスを実施し,リン酸化レベルが低下するタンパク質を網羅的に探索し,変異株での結果と合わせて基質候補を絞り込む.
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