研究課題
リン酸化によるタンパク質の翻訳後修飾は、細胞分裂や代謝、膜輸送などあらゆるプロセスに関わっている主要なシグナル伝達経路である。本研究では、タンパク質リン酸化を介した植物の環境適応機構の解明を目指しており、植物で最大のタンパク質脱リン酸化酵素ファミリーであるProtein phosphatase 2C (PP2C)に着目している。このファミリーは植物の陸上進出に伴って急速に拡大しており、モデル植物のシロイヌナズナにはPP2C遺伝子が80個存在する。乾燥や栄養欠乏などの応答に関わることが明らかにされた遺伝子もある一方で、全体の70%はまだ基質が明らかになっていない。そこで,機能未知PP2Cの欠損株のうち、野生株と表現型の差異がみられた3遺伝子について基質側からの機能解明を試みた。今年度は機能未知PP2Cの基質タンパク質を同定するため、PP2C欠損株ではリン酸化レベルが増加し、かつPP2C過剰発現株ではリン酸化レベルが低下するタンパク質を15N代謝標識による定量リン酸化プロテオミクス法によって網羅的に探索した。双方の解析で共通してリン酸化レベルが変動したタンパク質について、シロイヌナズナ・イネ・ジャガイモ・トウモロコシにおけるリン酸化部位の保存性を指標に絞り込みを行った結果、遺伝子Aの基質候補として3種類のタンパク質を同定した。これらの候補には細胞壁合成関連タンパク質や代謝酵素が含まれており、いずれも機能未知PP2Cとの関連はこれまで報告されておらず機能解明に向けて興味深い因子を得ることができた。
2: おおむね順調に進展している
他のタンパク質相互作用と比較するとタンパク質脱リン酸化酵素と基質との相互作用は弱いため、従来の酵母ツーハイブリッド法や共免疫沈降法だけでは基質の同定は困難であるが、本研究では独自に開発した15N代謝標識定量リン酸化プロテオミクス法を用いて、機能未知PP2Cの新規基質候補を同定することができた。この手法では一般的な未標識の比較法では実験誤差に埋もれてしまう2倍差以下のリン酸化レベルの変動も精度良く検出することが可能であるため、機能未知PP2Cの基質探索において強力なツールであるといえる。残り2遺伝子の基質探索も並行して進められていることから、おおむね順調に進展していると考えている。
今後は得られた基質候補タンパク質について、リン酸化部位置換変異体を作出して表現型解析を実施する。これによってリン酸化部位の機能的意義を明らかにし、PP2Cの機能解明に繋げる。また、解析対象PP2Cを拡大し、ファミリー全体の理解を深める予定である。
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植調
巻: 第57巻第9号 ページ: 18-20
https://www.bio.nagoya-u.ac.jp/~b2/