研究課題/領域番号 |
22J14154
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
塚本 兼司 名古屋工業大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 有機半導体材料 / 反芳香族性 / 直接アリール化反応 |
研究実績の概要 |
半導体はパソコン、スマートフォンといった現代社会を担う機器に数多く用いられており、今後さらに進むと考えられる高度情報化社会において欠かせない材料である。なかでも有機半導体は軽量で柔軟性に富み、かつ簡便な成膜プロセスによる製造が可能であることから、大面積デバイスやウェアラブル端末などへの応用が期待できる。しかし、現在の有機半導体の性能は社会実装には不十分であり、さらなる改善を必要とする。 近年、有機化学分野において反芳香族性という性質が注目を集めている。本性質は高い酸化還元特性や分子間の密なパッキングをもたらすことが知られており、その活用は有機エレクトロニクス分野おいて高性能有機半導体材料を実現しうる有力な手法の一つであると考えられる。一方で、当該性質は化合物の安定性を損ねる側面も有するため、これまでデバイス材料での応用は十分になされてこなかった。 本研究では、デバイス材料での当該性質の応用を促進するため、その制御手法の確立を目指した。具体的には、ピレン骨格を基に系統的かつ反芳香族性の寄与が異なる新規化合物群の設計を行い、酸化カップリングまたは直接アリール化反応を用いてそれらの合成を試みた。その結果、酸化カップリング反応では目的の反応が進行しないことが明らかとなった。一方、直接アリール化反応では目的とする反応の進行が確認でき、NMR測定および単結晶X構造解析の結果から標的化合物の一つの合成を達成したことが確かめられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、まず目的化合物群の合成法の確立を目指した。これにはシクロペンタジエン(五員環)構造の形成に用いるピレン環と他の芳香環間の分子内カップリング反応が重要となる。この反応条件を検討するため、初めに4つの五員環形成点をもつ反応前駆体を合成した。分子内カップリング手法として研究当初想定していた塩化鉄やベンゾキノン系を用いた酸化カップリング反応ではさまざまな検討を重ねたが、いずれにおいても目的とする五員環の形成は確認できなかった。この原因として、反応中間体である酸化種の反応性が低いことが推測された。このため、合成手法を酸化カップリング反応から基質の酸化を経由しないpd触媒を用いた直接アリール化反応へと変更した。本反応では前駆体にハロゲン原子などの反応起点を導入する必要があるため、該当する新たな前駆体を合成した。直接アリール化反応の条件検討は、最も単純な構造をもつ前駆体を用いて行なった。その結果、目的とする反応が比較的効率よく進行する条件を見出すことに成功した。NMR測定および単結晶X線構造解析から、得られた化合物は分子内に新たな五員環構造が形成した目的化合物であることが確かめられた。
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今後の研究の推進方策 |
先に見出した五員環形成条件をより五員環形成点の多い前駆体に用いることで目的とする化合物群の合成を達成する。直接アリール化反応の条件は化合物によって適切な温度、反応時間、溶媒等が異なる場合があるため、反応条件は必要に応じて再度検討する。これらで得られた化合物群のNMR測定、単結晶X線構造解析測定を行うことで、分子全体における反芳香族性の寄与の大きさおよびその分子間力等に対する影響を調査する。また、紫外可視分光および電気化学測定も合わせて行うことで、構造の違いがそれらの光電気化学的物性に与える影響を明らかにする。これらを系統的に評価することで、分子構造と反芳香族性の関係を精査し、反芳香族性の制御手法の確立を目指す。
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