研究課題/領域番号 |
22J14114
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
前川 啓一郎 豊橋技術科学大学, 大学院工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 固体高分子形燃料電池 / プロトン伝導 / 第一原理計算 / 有機塩 / 水素結合 |
研究実績の概要 |
高温無加湿燃料電池の実現に向けた新規プロトン伝導体として、有機物と酸によって形成される塩(えん)をベースとする材料に関して、以下二つの検討を行い、重要な成果を得た。 ①ポリ(4-ビニルピリジン)(PVPy)を塩基として用い、それに対して複数種類の酸をそれぞれ反応させた有機塩のプロトン伝導体を合成し、そのプロトン導電率と、密度反関数法(DFT)によって得られた物理化学特性の間の関係を調査した。それによって、有機物をベースとする塩における、高いプロトン伝導性を有する材料の条件を調査することを目的とした。検討の結果、DFT計算によって算出した、N-O間の距離(プロトン化原子間距離:PAD)が短いほどプロトン伝導性が高くなる傾向を示し、ある材料のプロトン伝導度を予測するための指標となり得ることが明らかとなった。 ②上記で得た知見を基に、新規プロトン伝導体であるイミダゾール-塩酸塩-シリカ複合体 (Imi-HCl-SiO2)を作製した。イミダゾール(Imi)は酸と反応できる塩基サイトを2つ持つため、二種類以上の酸を配位させたプロトン伝導体ができると考えた。さらに、上記①で確立したDFT計算の結果、Imiに対してHClとSiO2の二つを配位することによって、両水素結合部でのプロトン伝導が活性化されることが明らかになった。結果的に新規合成した材料では無加湿・130oCの条件で1×10-2 S cm-1の高い導電率を達成した。最後に、作製したプロトン伝導体を5wt.%の重量比でリン酸ドープPBI膜に添加し、高温・無加湿条件での発電特性を評価した結果、高い出力(521 mW cm-2)を得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、高温・無加湿条件での高いプロトン伝導性を安定して達成する材料の合成と、その燃料電池への応用を計画していた。現在ではすでに、有機材料と無機材料を組み合わせたコンポジット型の材料を合成し(上記ImiHCl-SiO2プロトン伝導体)、高いプロトン伝導特性を確認した。さらに、ImiHCl-SiO2プロトン伝導体の高温無加湿燃料電池への応用と出力の向上も確認しており、当初の研究計画の大部分を既に達成している。加えて、DFT計算によるシミュレーションを用いて、今回合成したようなプロトン伝導体のプロトン伝導性を予測する手法を提案した点で、当初の計画以上の進捗がある。一方で、当初の研究計画で挙げられていた、プロトン伝導膜からのリン酸(PA)の浸出の課題についてはまだ未解決であり、採用2年目で達成に向けて検討を行う予定である。 以上の現状から総合的に判断して、研究計画は概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果で得られた結果では、ImiHCl-SiO2プロトン伝導体などの有機-無機複合型プロトン伝導体において非常に高いプロトン伝導性を得られた一方で、熱安定性に乏しいことがわかっている。その課題を解決するため、現在では共有結合性有機構造体(COF)など、強い結合によって形成された連続構造と高い化学・熱安定性を有する材料に着目している。これまでに得られた、酸塩基反応によって形成される塩のプロトン伝導体に関する知見を活かし、COF内部に酸塩基反応によって酸を導入し、それによる連続したプロトン伝導チャネルを構築する。それによって、熱安定性・化学的安定性に長け、かつ高いプロトン伝導性を有する材料を実現できるのではないかと考えている。既にその予備検討は進めており、COF内部に酸塩基反応によってリン酸(PA)などを配位できることが明らかになっている。 さらに上記で述べたとおり、当初の研究計画で挙げられていた、プロトン伝導膜からのリン酸(PA)の浸出の課題についてはまだ未解決であり、PAドープPBIに頼らず、開発したプロトン伝導体を主とする電解質膜の実現によってそれを克服することを目指し、検討を行っていく予定である。
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