研究課題/領域番号 |
20J01478
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
本田 充 京都大学, iPS細胞研究所, 特別研究員(CPD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2025-03-31
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キーワード | クロマチン構造 / ヒト多能性幹細胞 / 骨格筋疾患 |
研究実績の概要 |
本研究は、ヒト多能性幹細胞から発生学上の差異を反映した部位特異的な骨格筋細胞を誘導する方法を確立し、その方法を部位特異的な症状の進行を示す骨格筋疾患の患者由来iPS細胞に適用してその表現型を再現し、その分子生物学的な背景をクロマチン構造の観点から探る。昨年度(初年度)は、本計画に必要となる様々な細胞群を樹立し、その一部(骨格筋疾患の患者由来iPS細胞とその遺伝子修復株)を論文で報告し、幹細胞バンクに登録して公開した。部位特異的な分化誘導法について、特にまだ確立されていない顔面骨格筋について、その発生起源を反映させるべく細胞外シグナルの活性化及び阻害を組み合わせ、骨格筋位特異的な転写因子と顔面骨格筋に特異的な転写因子の発現が見られる細胞塊が得られた。クロマチン構造解析に関して、転写特異的なクロマチン立体構造を調べる手法の導入と、ごく少数の疾患特異的マーカー遺伝子発現陽性の細胞を蛍光セルソーターにて分離濃縮する手法を確立した。これにより、細胞腫特異的、および疾患特異的なクロマチン構造を、患者由来iPS 細胞とその遺伝子修復株を用いて厳密に評価する実験型の土台を完成させた。クロマチン構造を人為的に制御するための手法として用いるエピゲノム編集をヒトiPS細胞で行うための実験系を確立し、プライマリー骨格筋細胞を用いて報告されている知見の再現がとれた。この実験系は本研究で将来同定される遺伝子発現制御領域の機能解析に用いることができる段階となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度は、本研究案に必要なFSHD2型の遺伝子修復株について、細胞株の品質チェックを行い論文としてまとめ、国際幹細胞バンクにも登録して他の研究グループにも活用してもらえるように公開した。ヒト多能性幹細胞から身体の部位特異性を反映した骨格筋幹細胞への誘導法の確立について、特に最も発生学的な違いが表れ、かつ誘導法が確立されていない顔面の骨格筋に焦点を絞り、様々な条件検討を行なった。具体的には、発生起源を共有する心筋細胞の誘導系をベースとして、細胞外シグナルを代表するタンパク質や特定のシグナル阻害剤を組み合わせる、また、培養の過程での細胞の剥離や凝集の操作を検討することで、骨格筋に特異的なマーカー遺伝子の発現が現れる条件を確定した。結果、心筋誘導のための中胚葉を経由する培養系から骨格筋特異的な転写因子MyoDの発現と、顔面骨格筋に得意的な転写因子Tbx1の発現を持つ細胞凝集塊が得られた。しかし、この細胞を長期的に培養したところ、骨格筋分化後期で出てくると予想されるマーカー遺伝子の発現が見られず、更なる改善が必要である。クロマチン構造解析に関して、最近確立されつつある新しい手法と、私たちで既に確立した安定的な分化誘導法による骨格筋細胞や疾患特異的マーカー遺伝子のレポーターベクターを用いて、解析手法の条件検討を詳細に行ない、FSHDの病態責任因子を発現するごく少数の細胞を回収する系を確立し、準備を終えた。エピゲノム編集について、標的にしたゲノム領域に安定したDNAメチル化を導入し遺伝子発現を制御する手法をヒトiPS細胞の系で確立した。この技術は、本研究の後半でエンハンサー領域の機能解析で適用する予定で、既に準備を終えられた。各トピックに関して進捗の良し悪しはあるが、総合的に見れば順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度進捗が不十分であった顔面骨格筋の分化誘導法の開発に関しては、骨格筋誘導の中盤から最終分化の過程を詳細に条件検討して、顔面骨格筋誘導系を確立する。さらに詳細にマーカー遺伝子とタンパク質の発現を確認する。とくに、既に確立されている体幹部の骨格筋誘導系で得られる細胞と比較することにより、部位特異的なマーカーの差異を確認する。疾患由来の細胞株でも誘導が可能であることを実験し、もし不安定であれば調節すべき要素を詳細に検討して、今後の病態解析に耐えうる分化誘導系を目指す。また、本年度9月から海外の研究室へ移動するため、移動先の研究室で使用が可能となるようにMTAの締結や細胞、ベクターの配送も行う。クロマチン構造解析に関して、渡航前までに現行の実験系による次世代シーケンサーを用いたデータを全て取得する。渡航後は実験開始までに様々な準備が必要であることから、この間にデータ解析を中心に進め、本研究課題の一つの大きな目標である疾患及び細胞腫特異的なエンハンサーの同定ができる予定である。
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