研究課題/領域番号 |
21J00379
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
鶴見 裕之 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 流体数学 / Navier-Stokes方程式 / 定常解 |
研究実績の概要 |
本年度、当研究員は流体の運動を記述するNavier-Stokes方程式の時間依存しない解(定常解)について、主に2次元全空間においてその考察を行った。 2次元において、先行研究としてある領域の外側での定常解(外部領域問題)や、全空間の場合には外力に構造に対称性の仮定を課した場合での定常解の存在証明が主になされてきているが、2次元全空間において任意の小さな外力に対する定常解を一般的に構成することは未解決な問題である。こうした問題意識のもと、当研究員は受入教員の前川泰則教授(京都大学)との共同研究に基づき、コンパクトな台をもつ十分小な(ただし0でない)軸対称流に任意の摂動を加えてできる外力に対する定常Navier-Stokes方程式の古典解の存在とその遠方での減衰性について証明した。本研究は過去の先行研究では必要であった外力(の摂動)の対称性を要求せず、定常解の存在を保証する外力の範疇を拡げたという点で大きく進展した結果といえる。本研究では元の方程式の代わりに渦度と流れ関数の方程式系を極座標とFourier級数を用いて考察を行った。また外部領域問題に関するHillairet-Wittwer(2013)による軸対象流周りでの線形化の手法を応用しつつ、方程式系のFourier 1-mode における非線形項内でのキャンセレーションを考慮した新たな逐次近似を導入し、渦度の摂動方程式を軸対象流の台の内側と外側で場合分けして解いて両者をつなぎ合わせることによって全空間の解を構成した。 当研究員は以上の研究成果を前川教授との共同論文にまとめて国際雑誌に投稿した。また日本数学会2022年度年会において本研究の発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究は2次元全空間における定常Navier-Stokes方程式の適切性に関して新たな知見を与えるもので、同方程式の定常流体モデルとしての妥当性を補強する結果となった。流体の運動に関する方程式は他にも様々なものがあり、本方程式はその一例に過ぎないものの、非対称な外力に対する本方程式の解の構成法は他の方程式にも応用され得るものである。また、現在までに行ってきた適切性に関する研究は本研究課題の主眼である非適切性の研究と対をなすものであり、今後の非適切性に関する考察の一助となることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに2次元全空間における定常Navier-Stokes方程式に関して、軸対称流に非対称な摂動を加えた外力に対しての古典解の構成に成功しているが、本年度においてはさらに外力に対する条件の一般化を図り、本方程式が示す定常流体のモデルの妥当性を外力の属する空間を連続的微分可能な関数のクラスからルベーグ空間やベゾフ空間に広げて検証する。またこれまでの研究で使用した渦度・流れ関数方程式系と極座標による分析方法の一般化を目指す。このために、関数空間論などの文献の他、外部領域問題まで含めた2次元定常Navier-Stokes方程式に関する先行研究論文を参照するなどの情報収集を行う。ある程度の適切性の理論の一般化が行えれば、非適切性(外力に対する解の不連続性)の観点からの研究も同時に進めていく。 上記のテーマの他、当研究員は外力を確率変数とする際に流体方程式が示す乱流問題にも興味を抱いた。特に近年Navier-Stokes方程式の1次元版であるBurgers方程式について、粘性係数が小さい場合の乱流の考察が進められている。そこで確率微分方程式(とくに流体方程式)に関する書籍・先行研究論文を通してこの分野に対する理解を深め、その多次元化や乱流のスペクトル評価の改善などの研究を行えるように準備を進めていく。
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