令和4年度においては、まず、本研究課題の成果の一部を反映させた単著(大島(2023)『日本型学校システムの政治経済学』有斐閣)を公刊した。これは、日本における近代学校制度(初等中等教育)の展開を理論的・歴史的に検討したものである。本書の議論は、現在に至るこのシステムは、制度選択期の教員不足の問題に影響を受け、この問題に対応するように、教員より相対的に管理・供給が容易であった教科書に依存しながら、教科書の制度を安定化するような制度選択が行われてきたことを主に主張するものである。このうち、本研究に関連する部分は、現在の教科書供給行政の規定において地方から国に対して行われる需要報告に関する部分が、一元集中的な情報構造を有している点、並びに、現在の情報技術条件を念頭に置いた場合の教科書等の電子媒体化についての理論的考察を行った点である。特に、後者については、現在の学校システムが、概ね紙媒体であることを情報提供・管理等の物理的な暗黙の前提として体系化されている点を指摘し、これらの電子媒体化を考慮すると、従来の制度にかかっていた制約から脱却するのみならず、現在の学校システムそのものを抜本的に変革しうることを示唆したものになっている。 これと並行して、いくつかの教育制度について、他の政策分野の類似性のある制度との比較や現行制度に至る政策過程の分析等を行いながら、その情報保有の機関関係の検討も進めた。この検討からは、教育行政の場合、教科書供給行政のような一元的な情報把握が行われる事柄の方が例外的であって、多くの場合、該当の事務等を所管する機関において分散的に管理され、機関間での情報共有の仕組みは十分に用意されていないことなどが見えてきている。
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