本研究では、教育行政および学校経営の政府間・機関間関係において、情報がどのような構造であるのか主に政治学・行政学の視点から検討を行ったが、3ヵ年の研究期間を通じて、理論的側面と制度的側面の分析が中心となった。そして、本研究からは、初年度(2021年度)の研究ノート、第2年度(2022年度)の図書、最終年度(2023年度)の論文の計3点が、業績として公表された。本研究の成果の概要は次の通りである。 「情報」の語は本質的に多義的であって、教育行政・学校に限らない、行政機関一般で取り扱われる「情報」といった場合、多種多様な性質のものが言及されうる。これを前提に、本研究では、これまでの公共政策学の先行研究が主に関心を払ってきた政策決定に資するための「情報」ではなく、政策実施または執行の必要から、管理簿・登録簿等で客体的に収集・管理されるものを「情報」と取り扱い、その所在を問題とすることにした。そして、このようなものに関わるいくつかの先行研究では、日本の行政機関における情報構造は分散的であることが指摘されていた。これを踏まえて、教育行政・学校におけるこのような情報の構造を、その所在を規定する法令から検討したところ、行政の執行権限の所在に応じて、情報をめぐる機関関係の構造が決定することを見出した。例えば、教科書供給行政においては、文部科学省が教科書発行者に対する発行指示の権限を独占しているため、各市区町村教育委員会や学校から各都道府県教育委員会を経て文部科学省に教科書需要数に関する情報が一元集中される仕組みとなっている。一方、教員免許の授与権者は、都道府県教育委員会であるため、都道府県教育委員会において免許の被授与者の情報を管理し、委員会相互での情報共有は行われない、分散的な状態がある、といった具合である。これは、日本の中央・地方関係における「分散」の特徴を反映していると判断される。
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