研究課題/領域番号 |
21J01567
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
千田 沙也加 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 特別研究員(PD) (30914923)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
|
キーワード | ポル・ポト政権期 / ジェノサイドの歴史 / 犠牲者中心 / 記憶の継承 |
研究実績の概要 |
2022年度は主に以下の2点の研究を行った。第一に前年度同様、ポル・ポト政権期を教える教材の研究を行った。特に、カンボジア資料センターが作成及び発行した副教材としてのテキスト『民主カンプチアの歴史』第1版(2007年)、第2版(2020年)と『12年生歴史教科書』(2011年)の記述内容と表現を考察し、加えて、今後の教科書開発の基準となる2018年に公布された高校歴史カリキュラムの分析から変化の方向性を析出した。その結果、ポル・ポト政権期に関する記述は、幅広い犠牲者を包摂した犠牲者中心(『12 年生歴史教科書』『民主カンプチアの歴史』第 1 版)から、加害者と被害者を峻別し、国際比較が可能なジェノサイドの過去とされる傾向(『民主カンプチアの歴史』第 2 版、2018 年高校歴史カリキュラム)にあることが示唆された。 また、7-8月には現地調査を実施し、教材にみられるポル・ポト政権期の記述をいかに受けとめ、どのように次の世代への継承を望んでいるのかについて、中学、高校の歴史教師7名に聞き取り調査を実施した。調査結果の詳細な分析は今後の課題であるが、教師たちはポル・ポト政権期について、身近にいる経験者の語りや、いわゆる学校での学び、歴史施設の訪問など、知識と経験を重ねて解釈をしていることや、カンボジア史の一部として、過度な特別視をしていない認識が示唆された。加えて、教育省で実施した歴史教材の開発者へのインタビューでは、カンボジアの歴史研究者のあいだでの世代間の解釈の齟齬などが聞かれた。立場や経験の差異による認識の違いの分析は、今後の課題である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年の研究を通して、教科書や教材に意図されるポル・ポト政権期の歴史継承の意味や価値と、歴史教育にたずさわる教師たちの認識や意図の差異が確認できた。ポル・ポト政権期の記憶を次世代にいかに継承するのかという課題に加え、カンボジアの歴史教育のあり方をめぐる権力と教師の専門性の問題の交点として、詳細な調査研究の実施は今後の課題である。
|
今後の研究の推進方策 |
新しいカリキュラムに基づく教科書の開発について、教育省への聞き取り調査を実施する。 政権の意図と、教育現場の教員の実践、またローカルな記憶の継承のあり方を整理することで今後の研究を推進する。
|