最終年度である本年度は、体系期ヘーゲル哲学の再構成に基づき、〈(1)自己正当化的な自己関係性と(2)現実への依存的関係性という、2つの独立した軸からなる形而上学〉という新たなメタ形而上学モデルを提示することができた。この【仕上げの研究】が完成したのは、1)21年度から継続していた【基礎研究】、つまり、『大論理学』(1812-16年)と『エンツィクロペディ』(1830年)に即した体系期ヘーゲル哲学の自己正当化構造の解明作業に関して一定の目処が付いたこと、そして、2)22年度中盤以降、近年の「メタ哲学/メタ形而上学」の研究動向を参照することで【発展研究】を一挙に進められたことによる。【発展研究】については、理論的限界や実際的な情報不足からM.ガブリエルの新実在論との対比は断念したものの、代わりに現代哲学や形而上学研究における「メタ哲学/メタ形而上学」論から大きな示唆を受けることによって、より広い観点から体系期ヘーゲル哲学の再構成に取り組むことができた。 本研究は、もともと絶対的精神論を切り口にヘーゲル哲学を体系的に拡張し、それ自身の歴史的制約を組み込んだメタ形而上学モデルを構築することを目標としていた。しかし、研究の進展に伴い、当初の構想ではヘーゲル哲学の自律性とその歴史的制約(依存性)を適切に関係付けられないことに気付き、上述のモデルへと修正を行なった。このモデルは、西洋形而上学史上、極めて特異なヘーゲル哲学のメタ哲学的特性を捉えており、今日のヘーゲル哲学研究に貢献するだけでなく、現代哲学における形而上学の再興やメタ哲学の議論に一石を投じる意義をもつ。コロナ禍のために在外研究を実施できなかったほか、最終成果を国際会議や研究論文で発表することも間に合わなかったが、2023年11月の日本哲学会秋季大会での発表は高い評価を受けたため、更なる検討を経て海外や論文で公表する予定である。
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