研究代表者は、免疫原性を低減させた新たなタンパク質製剤の創製を目指し、VHH抗体の鏡像分子「鏡像VHH抗体」の開発を進めている。本年度は、まず、前年度までにLアミノ酸を用いて合成経路を確立した疾患関連タンパク質(~200アミノ酸残基)が正しい位置でジスルフィド結合を形成していることを酵素消化試験によって確かめた。引き続きDアミノ酸を原料とした鏡像タンパク質の化学合成を行い、天然型タンパク質と対称の構造及び結合特性を有することを実証した。 続いて、前年度までに確立したスクリーニングプラットフォームを利用して、新たに化学合成した鏡像タンパク質に結合するVHH抗体の探索を実施したものの、従来法では特異的に結合するVHH抗体配列情報の同定が困難だった。そこで、鏡像VHH抗体の探索効率の向上を目指して、T7ファージ上に提示したVHH抗体ライブラリーの多様性増大と探索プロトコールの改良を行った。試薬のスケールアップによって、VHH抗体ライブラリーの多様性をこれまでの50倍程度まで増大させることができたものの、期待したほどのヒット取得率の改善には至らなかった。一方で、共有結合によって標的タンパク質を固定化する手法を用いた探索プロトコールに変更することで、ヒット取得率が著しく向上した。この改善した手法で探索を実施し、新規の鏡像タンパク質を含むいくつかの標的に対して選択的に結合するヒットVHH抗体を見出し、共通する相補性決定領域の配列情報の同定に成功した。 研究期間全体を通じて、研究代表者は、鏡像VHH抗体の探索・開発基盤を構築し、低免疫原性の特性を実証した。また、当初の計画から標的タンパク質を変更することになったものの、疾患関連タンパク質に特異的に結合する鏡像VHH抗体の創製を達成した。
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